3年後の地球帰還を目指す「はやぶさ」
【2005年12月20日 宇宙科学研究本部 宇宙ニュース】
再度燃料の漏洩が発生し、12月9日以来運用ができない状況になっている「はやぶさ」について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、復旧の可能性は高いとしながらも、帰還を含めた運用復旧には長期の時間を要するとし、当初の予定を3年間延期し、2010年6月に地球に帰還させる意向を発表した。
12月8日に「はやぶさ」からの信号を受信していた臼田局において、受信レベルの低下とレンジレートの大きな変化が観測された。レンジレートの大きさがゆっくりと減衰していることや受信レベルが、緩やかに低下していたことから、「はやぶさ」に起きた予期せぬ姿勢変動の原因について、燃料漏洩に起因するガスの噴出が原因となって姿勢変動が引き起こされたと推定されている。いったん収まったかに見えた「はやぶさ」内部での漏洩燃料の気化が続いていたことになる。
燃料の漏洩は、11月26日のイトカワからの離陸後、および11月27日に発生したと推定されており、11月29日にビーコン受信が復旧して以来、探査機内各部の温度を上昇させ、発生しうるガスを逐次排出するべく運用が行なわれた。指数関数的に、姿勢の乱れの進行度合いが減衰してきたことから、理論どおりにガスが排出さたと判断されていた。
探査機は、12月8日時点では、化学推進機関の復旧待ちの状態にあり、姿勢の安定化をはかるために、周期が6分ほどの緩やかなスピン状態に入っていた。12月に入って緊急避難的に、姿勢制御用に転用されていたキセノンガス噴射(もともとはイオンエンジン用)による姿勢制御能力が、姿勢を安定させるほどには十分でなく、スピンの乱れを止めることができなかった。「はやぶさ」は、現在、臨界ニューテーション角(これを越えると、スピン軸自体が回転をはじめ、探査機がひっくりかえってしまう)ないしそれを超える大きなコーニング運動(みそすり首振り回転状態=倒れかけたコマの不安定なようす)に入ったものと考えられている。
このため、「はやぶさ」探査機の高利得アンテナを地球方向に安定して向けることができず、12月9日から地上の管制センターとの交信が行えない状況に入っている。「ほやぶさ」の復旧作業が順調に実施されて回線が復旧した場合でも、探査機内部の燃料漏洩に起因するガスの排出に、なおかなりの時間が必要であると考えられている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、ただちに復旧しないかぎり、現時点での状況から判断して、今月いっぱいに地球帰還軌道に載せることは難しく、2007年6月に地球に帰還させるという当初のスケジュールを、3年間延期せざるを得ないとの判断に至った。
これにともない探査機の運用方針は、通常の運用モードから救出モードへの転換が必要になった。救出運用は今後約1年間継続する予定だ。この間に復旧できる確率は比較的高く、2007年初めまでに復旧できた場合は、その時点からイオンエンジンを運転して、2010年に地球に帰還させる計画となっている。今後「はやぶさ」は、機能の復旧を図りながら、小惑星イトカワと並走するような軌道をとって、太陽系を一周、次の地球帰還軌道への移行のチャンスを待つことになる。