11月8日の宵に皆既月食が起こります。時間帯や月の高度、継続時間などが好条件で見やすい月食です。
さらに、月食中に月が天王星を隠す天王星食も起こります。月食中の惑星食という、非常に珍しい現象です。
観察や撮影の計画を立て入念に準備をして、万全の態勢で「皆既月食×天王星食」を楽しみましょう!
目次
月食の見え方
全過程は18時過ぎ~22時前まで、
食の最大は19時59分
今回の月食では18時9分に満月が地球の影(本影)に入って月が欠け始めます(部分食の開始)。西日本ではまだ薄明中で、月の高度は低め(大阪で15度、福岡で10度)なので、見晴らしの良いところで観察しましょう。
その後、東の空を上っていく満月を地球の影が覆い(※)、暗い部分が次第に広がっていきます。そして部分食開始から約1時間10分後の19時17分に月全体が地球の影に入り、皆既食の状態となります。地球の影に最も深く月が入り込む食最大の19時59分をはさんで、約85分間、皆既状態が続きます。
※天球上の動きとしては、地球の影の中に満月が入っていきます。
20時42分に皆既食が終了すると、月は再び明るくなり、丸い形へと戻っていきます。そして約1時間10分後の21時49分、部分食も終了し、白く丸い満月が南東の空に輝くようになります。
全国どこでも同時に起こる
月食は、月が見える場所であればどこでも同時に起こります。日食のように観察地によって時刻が変わるということはなく、全国どこでも(日本以外でも)同じタイミングで始まって終わります。
ただし、同じ時刻であっても月が見える方位や高度は異なります。前述のとおり食の前半は西日本では月がやや低いので、空の開け具合や建物の様子などを事前に確認しておきましょう。また、日没時刻も異なるので、(食開始ごろの)空の明るさにも違いがあります。
- 時刻の出典:NASA Eclipse Web Site
- ΔTの値を69sとして再計算しています。
- 国立天文台 暦計算室の予報とは微妙に時刻が異なりますが、これは地球の影の大きさをどう見積もるかの違いによります。
地球には大気があるため、影の境界はシャープではありません。開始・終了時刻は目安とみておくのがよいでしょう。
- 部分食の前後には「半影食」(›› 解説)という現象があり、月がわずかに暗くなっていますが、眼視ではわかりにくいかもしれません。
- ※天王星食の時刻や見え方は観察地ごとに異なります(詳しくは後述)。
月の色に注目
皆既月食の際には満月が赤っぽくなり、この色はよく「赤銅色」と形容されます。
月が赤銅色になるのは、地球の大気を通った太陽光のうち赤い成分のほうが月に届きやすいためです(›› 解説)。大気の状態によって届く光が変化するため、月の色は月食ごと異なり、明るいオレンジ色や暗い茶色のように見えることがあります。
また、地球の影には濃淡があるので、部分食の時だけでなく皆既中も月の色や明るさは変化します。今回は影の中心近くを月が通るため、皆既中の変化もわかりやすいかもしれません。さらに、地球の大気や空の明るさの影響によっても、月の色や印象が変わります。現象全体を通じて満月の色に注目してみましょう。
月からやや離れたところにはプレアデス星団(すばる)があります。月が欠けて暗くなるにつれて、星団の星々がよく見えるようになることを確かめてみてください。さらに、おうし座のアルデバランや火星なども見えていて、赤い天体の共演も楽しめそうです。
天王星食の見え方
天王星食とは、惑星である天王星が月に隠される現象です(正確には「天王星の掩蔽(えんぺい)」と表現します)。天王星食そのものは、地球全体で見ればそれほど珍しい現象ではありませんが、月食と同時に起こることはめったにありません。次回は2106年の部分月食で、皆既月食と同時となると2235年まで待たなければなりません(天王星に限らず、全惑星を対象としてもです)。
隠れるのは20時30分前後、現れるのは21時20分ごろ
月食とは異なり、天王星食は見る場所によって現象の時刻が異なります。東京の場合、天王星が月に潜入して隠れるのは20時41分、月から出現するのは21時23分です。
現象の時刻が異なるということは、隠れたり現れたりするときの月の様子(月食の進み具合)も異なることになります。潜入時は北日本を除いては皆既食中、出現時は部分食の途中(北海道北部では部分食の終了後)になります。さらに、月のどこに潜入してどこから出現するかも、見る場所によって変わります。動画で、見え方の違いを確かめてみてください。
食を見る、撮る
月食観察のポイント
月の色や形が変化していく様子は肉眼でもよく見えるので、月食観察に特別な機材はいりません。ふだん月を見ているのと同じように、空を見上げるだけで月食を楽しめます。「月の模様や変化をじっくり眺めたい」という場合には、双眼鏡や天体望遠鏡を用意しましょう。
- 車の往来や足元を確認するなど、安全にじゅうぶん注意しましょう。
- 子供だけで観察したり、少人数で暗いところに行ったりしないようにしましょう。
- 私有地への立ち入りや大騒ぎすることは厳禁です。ルールやマナーを守りましょう。
- 防寒の準備、新型コロナウイルス感染症対策(人同士の間隔を空ける、機材をこまめに消毒するなど)もしっかりと行ってください。
天王星食観察のポイント
天王星の明るさは約6等級です。双眼鏡でも見えますが、望遠鏡を用いるとさらに見やすくなります。アストロアーツのオンラインショップで様々なグッズを取り揃えているので、ぜひチェックしてみてください。
- 潜入や出現には、それぞれ10~15秒ほどかかります。
- 潜入時は天王星が見えているおかげで、観察はそれほど難しくありませんが、皆既食の終了前後の現象のため月が意外と明るいので、天王星を見失わないように注意しましょう。
- 出現時は天王星が見えておらず、月の明るさもかなり戻っているので、難易度は高くなります。ステラナビゲータで時刻や出現位置をよく確かめて、望遠鏡で観察しましょう。
- 月食中の月と天王星が大接近している様子だけでもめったに見られない現象です。潜入・出現の瞬間だけでなく、前後の時間も楽しみましょう。
観望会やインターネット中継
公開天文台や科学館などで開催される観望会(観察会、観測会)では、詳しい解説を聞いたり参加者同士で体験を共有したりしながら月食を楽しむことができます。望遠鏡で月を拡大して見せてもらえるかもしれません。お近くのイベント情報は、全国プラネタリウム&公開天文台情報ページ「パオナビ」などで検索してみてください。
※新型コロナウイルス感染症対策として、事前申し込みの必要や参加人数の制限などがあるかもしれません。詳しくは施設やイベント主催者などにご確認ください。
残念ながら当日曇ってしまったり外に出られなかったりして見られない場合には、インターネットのウェブ中継などで楽しむ方法もあります。複数地点の中継を見ると、月食はどこでも同時に起こること(天王星食は見え方が異なること)も実感できるでしょう。
- インターネット中継リンク集
(情報とりまとめ:日本公開天文台協会/ページ最下部) - ライブ中継一覧
(情報とりまとめ:天文リフレクションズ) - ウェザーニューズ
撮影のポイント
月や月食をきれいに撮影するコツは、露出やシャッター速度などを調整して取り入れる光の量を上手くコントロールすることです。欠けている割合が小さく月が明るい時には光量を少なくし、反対に大きく欠けている時は暗すぎるので多くの光を取り入れるようにします。天体写真ギャラリーなどを参考にしてみてください。
- スマートフォンのカメラでも月の色や明るさの変化は写りますので、手軽な記念撮影としてはじゅうぶん楽しめます。
観望会などでは、天体望遠鏡のアイピースにスマートフォンのレンズを当てて拡大撮影をさせてくれる場合もあります。 - コンパクトデジタルカメラでは夜景モードやマニュアルモードに設定し、シャッタースピードを調整しましょう。月が明るい時には速めの(短い)、暗い時には遅めの(長い)露出にします。オートモードしかない場合は明るい前景を入れると露出を短くできることがあります。
- 望遠レンズや望遠鏡を取り付けて月を大きく写すなら、デジタル一眼レフカメラやミラーレスカメラを三脚に載せて撮影するのがおすすめです。必要に応じて赤道儀も使用しましょう。
天体撮影ソフト「ステラショット」では、欠け具合に応じて露出を自動的に補正することもできるので、たいへん便利です。 - 多重露出による月食の連続写真も面白いものです。適当な時間間隔ごとに撮影したものを画像処理ソフトで合成すれば、食の経過を記録した画像が簡単にできあがります。
月食の仕組み
月食が起こる理由
宇宙空間では、太陽に照らされた地球の後ろ側(夜の方向)に地球の影が伸びています。地球の周りを回る月がこの影の中に入ってくると、月面にその影が落ち、月食が起こります。このとき太陽‐地球‐月は一直線に並んでいますから、月食は必ず満月のタイミングで起こります。
しかし反対に、満月のときに毎回月食が起こるわけではありません。これは、月の公転軌道が地球の公転軌道(つまり、地球の影の中心が位置する場所)に対して5度ほど傾いているからです。この傾きのため、満月はたいてい地球の影の上下(黄道面の南北)にずれます。このずれの量が小さいときには地球の影と月が重なるので、月食となって見えるわけです。1年間では2~5回の月食が起こりますが、ほとんどの年は3回以下です(2020年のように半影食しか起こらない年もあります)。
ところで、月食のとき太陽‐地球‐月が一直線に並んでいるということは、月から観察すると太陽と地球が重なって見えるので、月では地球による日食が起こっています。アルテミス計画で再び人類が月に降り立てば、そこから日食を見ることがあるかもしれません。
また、今回は天王星食も同時なので、太陽‐地球‐月‐天王星がほぼ一直線に並んでいるということになります(ぴったり直線上ではないので、天王星から見ても月や地球は太陽面上にはありません)。大きな視点で天体の配列を想像してみましょう。
月食の時に満月が赤くなる理由
皆既食や深い部分食のときには月全体(または大部分)が地球の影の中に入っているので、月がほとんど見えなくなってしまうように思います。しかし実際には、赤っぽい色になった満月を見ることができます。これはなぜでしょうか。
地球の大気の中を太陽光が通過するとき、その光は大気によって曲げられて(屈折して)月まで届き、ほんのりと月を照らします。このとき、光の成分のうち波長の短い青い光は大気に散乱されるためほとんど月まで届きません。一方、波長の長い赤い光は散乱されにくく、月まで届いて月面を照らします。このため、月は真っ暗になることはなく、赤っぽい色に見えるのです。大気中の塵や水蒸気の量によって、非常に濃い茶色や赤色のように見えることもあれば、明るいオレンジ色のように見えることもあります。
また、「ターコイズフリンジ」と呼ばれる欠け際の青い部分が見えることもあります(撮影するとわかりやすくなります)。先ほどの説明とは反対に、赤い光のほうが地球大気のオゾン層に吸収されて届きにくくなり、青い光の一部が月に届いている部分と考えられています(詳しくは「星ナビ」2021年11月号参照)。
月食の種類
地球の影の大きさ(見かけの直径)は、月3個分ほどです。この影の中に月が全部入ってしまう状態を「皆既食」と呼び、そのような皆既状態が見られる月食を「皆既月食」と呼びます。月が地球の影の中心に近いところを通れば皆既状態が長く続くことになり、今回は約85分ですが、昨年5月26日の皆既月食ではわずか15分ほどしかありませんでした。
また、月の一部だけが地球の影に入っている状態は「部分食」で、月食全体を通じて部分食しか見られない月食を「部分月食」と呼びます。皆既食の前後にも部分食が起こっていて、月が地球の影の中を動いていくにつれて白い満月→部分食→皆既食→部分食→白い満月、と変化していきます。
さらに、地球の影(正確には「本影(ほんえい)」)の外側には一回り大きな「半影(はんえい)」が広がっていて、この半影の中に月が入っている状態を「半影食」と呼びます。半影は薄いので、半影食のときに月が暗くなっている様子は眼視では気づきにくいかもしれません。写真で記録するとわかりやすいでしょう。
※月食全体としては皆既月食でも、観察場所によっては皆既食中の月は地平線の下にあって見えず、その場所からは部分月食となる場合もあります。同様に、皆既月食や部分月食であっても場所によっては半影食しか見えない(半影月食となる)こともあります。
近年の主な月食
2018年から2026年まで掲載(半影食のみの現象は含みません)。
日付 | 部分食 皆既食 |
備考 |
---|---|---|
2018年 1月31日 |
203分 76分 |
|
2018年 7月28日 |
235分 103分 |
月没帯食。北海道などでは部分食のみ |
2019年 1月21日 |
197分 62分 |
日本からは見えず(南北アメリカ方面) |
2019年 7月17日 |
178分 --- |
日本では中国地方以西だけで月没帯食(アフリカ、中近東方面) |
2021年 5月26日 |
187分 15分 |
スーパームーン。北海道西部~中部地方以西では月出帯食 |
2021年 11月19日 |
208分 --- |
山形~福島以南では月出帯食。皆既食が起こらない部分月食としては1901~2200年で最長 |
2022年 5月16日 |
207分 85分 |
日本からは見えず(大西洋方面) |
2022年 11月 8日 |
220分 85分 |
今回。同時に天王星食も起こる |
2023年 10月29日 |
77分 --- |
|
2024年 9月18日 |
63分 --- |
日本からは見えない(大西洋方面) |
2025年 3月14日 |
218分 65分 |
日本からは北日本だけで超低空の月出帯食の部分月食(南北アメリカ方面) |
2025年 9月 8日 |
209分 82分 |
|
2026年 3月 3日 |
207分 58分 |
中国地方以西では月出帯食 |
2026年 8月28日 |
198分 --- |
日本からは見えない(南北アメリカ方面) |