思い出の大彗星
伝説の「イケヤ・セキ」から南半球の空いっぱいに尾をたなびかせた近年の彗星まで、20世紀後半以降の大彗星を写真と記録で振り返ります。(藤井旭さん執筆「彗星のいる風景 〜歴代彗星ギャラリー〜」をベースに再構成しています)
池谷・関彗星
C/1965 S1 Ikeya-Seki
1965年秋、静岡県の池谷薫さんと高知県の関勉さんの二人が発見したクロイツ群の大彗星。10月21日の近日点通過時には、白昼、小望遠鏡でも太陽のすぐそばを動いていく姿が見えた。その後、夜明け前の東の空に長大な尾を引いて現われ、当時の若い天文ファンたちを熱狂させ、以後、多数の日本人コメットハンターたちが活躍する原動力となった。
頭部の明るさは4等級で、尾もからす座からコップ座に伸びるくらいのものだったが、当時の夜空は暗く澄み、肉眼でもその勇姿が感動的だった。
ベネット彗星
C/1969 Y1 Bennett
南アフリカのアマチュア天文家J.C.ベネットさんが1969年12月28日に発見した彗星。発見時の光度は10等だったが、翌1970年3月20日の近日点通過のころにはマイナス3等に達し、都会でもはっきり見ることができた。20世紀の中ではもっとも輝いた彗星と称されている。
明るさの割には尾の長さは20度だったが、太く曲がった尾とまっすぐ伸びた尾の2本がV字形に開いた姿が、夜明け前の東の空にかなり長時間にわたって見えた。
ウェスト彗星
C/1975 V1 West
1975年9月24日、南米チリにある欧州南天天文台の口径1mシュミット望遠鏡で撮影した写真のなかに、R.ウェストさんが発見した彗星。1976年3月には、明るさマイナス2等、尾の長さ30度という大彗星に成長。見る者を圧倒するほどの美しさとなって、夜明け前の東の空に登場した。
核が4個に分裂したため、大量のチリが放出され、シンクロニックバンドと呼ばれる無数の筋が鮮やかに見えたのも印象的だった。20世紀でもっとも美しい彗星の1つと言われている。
ハレー彗星
1P/Halley
彗星といえば誰もがすぐその名を思い浮かべるほど有名な周期彗星で、約76年ごとに出現しては、歴史上にさまざまなエピソードを残し続けてきたことで知られる。その名は、英グリニッジ天文台長で76年周期を予言して的中させたE.ハレーに由来する。
1910年の回帰では全天を横切るほどの長大な尾が見られたが、1986年には条件が整わず、南半球で3等級の姿としてしか見えず“ハレー彗星ブーム”の騒動ほどにはさえなかった。一方、欧州のハレー探査機ジオットがその核を初めて撮影するなど科学的な成果は大きかった。次回は2061年夏、北の空に1等級で見える。
百武彗星
C/1996 B2 Hyakutake
鹿児島県のコメットハンター百武裕司さんが発見した新彗星で、急速に地球に接近、北の空に100度以上にも伸びる長大な尾をたなびかせ人びとを驚かせた。彗星本体の大きさは並のサイズだったが、地球に接近したため大彗星となって見えた例だ。
ヘール・ボップ彗星
C/1995 O1 Hale-Bopp
アメリカの二人のアマチュア天文家、A・ヘールさんとT・ボップさんが、1995年7月24日にいて座の球状星団M70の近くで発見したもので、2年後に大彗星になることが早くから予想された珍しい例となった。
地球にはあまり接近しなかったが彗星本体が大きく、約3か月以上にわたって肉眼で楽に見え、しかも夕空と夜明け前の1日に2回も見ることができた。青いイオンの尾と太くゆるやかにカーブした尾の2本があざやかに分かれて見えたのも印象的だった。
マックノート彗星
C/2006 P1 McNaught
2007年1月下旬、南半球の夕空に史上最大級のチリの尾をたなびかせる大彗星となって姿を見せ人びとを驚かせた。これはオーストラリアのチロ天文台で見られた光景で、次回この彗星が戻ってくるのは9万年後と見られている。
ホームズ彗星
17P Holmes
周期7年でめぐる小さな周期彗星。2007年の秋、わずか1日で40万倍以上にも大増光するアウトバーストを100年ぶりに起こした。2.5等級の明るさとなった尾のない姿は肉眼でよく見えた。
ラブジョイ彗星
C/2011 W3 Lovejoy
太陽に大接近して、2011年のクリスマスの頃に大彗星となったラブジョイ彗星は、南半球でしか見ることができなかった。アイソン彗星もやはり太陽に大接近することから期待が高まっている。