南緯45度の星空案内人
第4回 「南天の星空の魅力」
Writer: 米戸実氏

《米戸実プロフィール》

1964年大阪生まれ。子供の時から南半球に興味を持ち始め、ハレー彗星はニューカレドニアへ。卒業後にニュージーランドへ冒険旅行に出て、旅行と南半球にすっかりはまる。両国の旅行会社に勤務し、現在クイーンズタウンでスターウオッチングツアーを運営する傍ら、オーロラ撮影に熱中。

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先日、ニュージーランドの南島最大の街クライストチャーチまでのドライブを楽しんできました。と言っても中身は出張で、私の住む街クイーンズタウンから、往復1000キロを24時間以内で走るという強行軍でした。しかも出発時間は仕事の関係で午後10時30分になってしまい、一体500キロ先の目的地に何時に到着するのか、不安でいっぱいでした。しかし、そんな事は走り始めて直ぐに吹き飛びました。

それは南天の銀河という星のトンネル内を運転していたからです。東の空からは昇ったばかりの木星が、背面飛びでサザンアルプスを越えてきたさそり座を従えていました。しかも、この木星も昇ったばかりなのに、色は限りなく白く輝いていました。

地平線上の星が青白く輝いて見えるニュージーランドの南島。どこまでも夜空は澄んで、星の瞬きをも許さない、そんな星空を見ながら制限速度いっぱいの100キロでひた走る途中、峠に差し掛かるとフロントガラスの正面には、いて座の銀河も飛び込んできて、思わず仕事であることを忘れてしまいました。

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進行方向が北東なので、その後も天の川の一番濃い所を真正面に見ながらの運転が続きました。気分はまさにプラネタリウム。しかし車内音楽は懐メロ。アットランダムに聞こえてくる80年代の音楽が眠気除け。学生時代に天文同好会で観測に出かけた頃を思い出し、「そう言えば、あの頃見た夜空も凄かった」と深い感慨を覚えました。もちろん、あの頃見た夜空とここで見る夜空では空の澄み方が違うので比較は出来ませんが、とにかく星のトンネルを連続で5時間走るという大変贅沢な移動となりました。

同じ頃、南天で最も賑やかな所が天頂に達しました。言わずと知れた「みなみじゅうじ座」付近のことです。運転中は残念ながら真上過ぎて全く見えませんでしたが・・・。みなみじゅうじ字はケンタウルスと隣同士の星座で、いずれも1等星が2つずつあり、20度以内で合計4つの1等星が天の川のど真ん中で光り輝きます。その右手にはバット星雲、そして大星雲エータカリーナも寄り添っています。南十字の直ぐ左下には暗黒星雲コールサック、通称「石炭袋」が光輝く天の川を隠してしまい黒くなっています。左上には最大の球状星団オメガ星団が、まるで彗星核のように輝いています。

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これだけ賑やかな対象物は銀塩カメラの標準レンズで全てとらえる事が出来ます。そしてレンズを28ミリ広角に換えると、またまた賑やかな対象物が写ります。実はこの周辺には十字架が3つも集まっています。サザンクロス(南十字)、フォールスクロス(にせ十字)、ダイヤモンドクロスがそれです。

それ以外にもまだまだあります。中でもスターウオッチングツアーでお客様が一番驚かれるのは、白い雲だと思っていたものが、実は大小のマゼラン星雲だったということです。私が「今晩は雲一つない晴天で良かったですね」と振ると、「いやあそこに雲がある」と返って来ます。まさかあれ程までに大きな物体が星雲だとは誰も思わないのです。特に大マゼラン星雲の大きさには驚かれます。

次に双眼鏡を通して見た時、お客様が一番驚かれるのは、やはりエータカリーナ星雲です。7倍の50ミリ双眼鏡で見ると、視野内に数え切れない程の星が見えます。中には「何これ!」と悲鳴にも近い絶叫を発する方も少なくありません。確かに、この星雲を双眼鏡で一度見てしまえば、私のように栄転のお話を何度も断る羽目に見舞われるのです。実はこの星雲、私の人生を滅茶苦茶にしてしまった憎い奴なのです(笑)。また写真に撮ると真紅に写り、蘭が「これでもか!」と花びらを広げているかのようにも見え、これがまたたまらないものがあります。絶世の美女といったところでしょうか?

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ところで皆さんは、人間が肉眼で見る事ができる最も暗い星は何等星かご存知ですか?小学校で6等星だと教わりました。しかし、まだ日本に住んでいた学生時代に、私は6等星を肉眼で確認した事はこれまで一度もありませんでした。実は、ここクイーンズタウンでは6等星までくっきりと見えます。これは追尾撮影を行う時に目印となる「八分儀座の台形」の場所を探す時に、大いなる助けとなります。何故なら、この台形を作り出す4つの星のうち、2つが5等星で残りの2つが6等星であり、肉眼でこの台形を見つけることが可能だからです。

そして何と言っても、クイーンズタウンではこれらの天体全てが、地平線に沈まない周極星だということです。お隣のオーストラリアでは、シドニーやパースを含むほとんどで、南十字星が地平線に沈んでしまい見えない時期があります。一年中、これらのサザンオールスターズ(笑)を安心してご覧になられたい方は、どうぞニュージーランドをご指名下さい。

さて、そのニュージーランドでは素晴らしい星空もさることながら、心から人々を感動させてくれる所が満載です。ニュージーランドには北島と南島があり、どちらも大変美しい景色が見られます。しかし、私はあえて南島の南西部、ユネスコの世界文化遺産にも指定されている、通称「テ・ワヒポウナム」を絶対にお勧めます。4つの国立公園が一堂に集まり1996年に世界遺産に指定されました。「テ・ワヒポウナム」とは先住民マオリ族の言葉で「宝が集まる所」という意味で、緑色の翡翠(ひすい)が大量に産出された場所を言います。

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この「テ・ワヒポウナム」は、最高峰マウントクック周辺の山と氷河から南側に広がる地域で、大自然が残り「まさにこれぞニュージーランド!」という地域です。これを見ずしてニュージーランドを語るなかれと申し上げたいです。クイーンズタウンは、「テ・ワヒポウナム」の前線基地でもありますが、万単位の人口の街なのに、オプショナルツアーを運営する会社が100を超えているという、まさにアクティビティ天国の街です。そこに満天の星と七色のオーロラが見られるとなれば、誰が他の街へ引っ越そうと思うでしょう。

次回は、星とオーロラの「ドタバタ撮影記」をお話します。

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