南緯45度の星空案内人
第16回 「改造デジイチを使ってみて」

Writer: 米戸実氏

《米戸実プロフィール》

1964年大阪生まれ。子供の時から南半球に興味を持ち始め、ハレー彗星はニューカレドニアへ。卒業後にニュージーランドへ冒険旅行に出て、旅行と南半球にすっかりはまる。両国の旅行会社に勤務し、現在クイーンズタウンでスターウオッチングツアーを運営する傍ら、オーロラ撮影に熱中。

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「フイルムを使えばこんな悩みは発生しないが、やはり便利で写りも良いので使ってしまう」これがデジタル一眼(通称デジイチ)を使って天体を撮影している方の本音ではないでしょうか。

私もその一人。フイルムで撮影すると、その場で撮影した画像の確認はできないし、費用もかさみます。おまけにフイルムを最後まで使い切りたい衝動に駆られるし、すぐに現像に出せません。第一にフイルム表面の埃の除去も面倒、現像代も高額です。それに画像をデジタル化するためにはフイルムスキャナーが必須です。スキャナーは、すでに製造が打ち切られましたので、今後故障しないことを祈っていますが・・・。

こんな昔の話をしなくても、皆さまの苦労は周知の事実。しかし、デジイチを使えばこんな面倒なことにはなりません。やはり画期的なのは、撮影した画像をその場で見られることでしょう。ピントがずれていればすぐに修正ができ、極軸がずれていてもすぐに分かります。帰宅後はそのままパソコンに落とせるし、画像処理ソフトにも直行です。RAWで撮っていれば味付けも自由自在です。しかし、スキャナーで読み取った画像はこうはいきません。味付け範囲も限られてくるので、スキャンの段階で何とかしなければなりません。気に入らなければ、もう一度スキャンのやり直しです。

これだけの差が存在するのなら、もう2度とフイルムを使わなければ・・・と思いますが、デジイチには決定的な欠点があるのです。今回はその欠点、「赤い星雲が赤く写らない」という悩みを解決してくれる、画期的な方法を試しましたので報告いたします。

この方法はかなり昔から取り入れられてきたもので、今更とは思いますが、南緯45度に住む田舎者の買い物事情も察していただき、その独り言として読んでください。なにせここにはエータカリーナ星雲という「じゃじゃ馬娘」が目の前にいますから、これをデジイチで赤く撮るために新品のデジイチを購入、それを愛知県にお住まいのある方にお送りして改造してもらって・・・と手間のかかる作業をしてきました。それも、3年ぶりに帰省した日本の滞在中にです。

さてその画期的な方法ですが、既にご存じの方も多いと思います。月刊星ナビの2007年11月号で特集が組まれたので、私からはごく簡単に説明します。

デジタルカメラの受光素子、例えばCCDやCMOSと呼ばれるものの前面に、赤外カットフィルターと呼ばれるものが配置されているそうです。このフィルターのお陰で、我々の顔は肌色に写るし、そのままの色が反映されるのだそうです。しかしこのフィルター、赤い散光星雲が発する656.3ナノメートルという波長を約20%程度しか透過しない事が知られています。

経験済みの方もいると思いますが、赤い散光星雲が紫色に写ってしまうのです。8割も除去されれば、赤い色が表現されるはずがありません。そこで考え出されたのが、このフィルターを除去してしまう方法です。

今回はその改造カメラを使って初めての撮影を試みました、カメラはキャノン EOS Kiss X2です。帰省する前から大阪の実家に届けてもらえるように手配し、後に愛知県の瀬尾様(参照:瀬尾様のサイト)に改造して頂きました。

ニュージーランドに帰国してからはドタバタしていて、すぐには撮影に出向けませんでした。が、そうこうしている間に降雪の時期を向かえ、暗夜で晴天の空を見逃していました。今回の画像は、唯一晴天が確保できた数時間に撮影した1回勝負、しかも極寒の中でしたので、極軸合わせをサボってしまったものです。お許しください(笑)。

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さて、早速こちらからご覧ください。こちらが改造カメラで撮影した1枚目、そうファーストライトの画像です。レンズはペンタックス用のシグマの20mm・F1.8です。マウントアダプターを使っています。撮影時の絞りはF2.8で、露出時間は300秒。ノイズリダクションはしていません。ISO感度は800。ホワイトバランスは晴天です。ピント合わせは勿論ライブビューです。確か右上の明るい星、木星でピントを合わせました。気温はマイナス3度です。画像は長辺4272ピクセルをPhotoshopで800ピクセルに縮小し、画像の大きさが200Kを超えない様に71%まで画質を落としてあります。

まず驚いたことは、300秒の露出後、直ちに液晶に画像が表示されたことでした。これまで使っていたペンタックス *ist Dsでは、露出時間と同じだけのノイズリダクションに突入し、1枚の写真を撮るのに10分もかかっていました。ちなみにその*ist Dsで撮った銀河の写真はこちらです。

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レンズは15mm・F2.8ですが、ISO、露出時間などは上の写真と同じです。画像を77%に落としてあります。木星の場所がずれていますね。撮影日は2007年3月22日です。マクノート彗星を撮っていた頃のものです。

比較すると一目瞭然、驚いた事は「赤っ!!!」でした。余りにも赤過ぎるため、二次的な何かが影響しているに違いないと、すぐにピンときました。それは露出中にファインダーから入る光でした。実はEOS Kiss X2の露出中に液晶が少し明るくなり、そこに露出時間が何分何秒と表示されているのです。それがファインダーを通してCMOSを感光させていると判断しました。

そう言えばペンタックスで撮っている時はファインダーキャップを取り付けていましたので、この様にファインダーから入る光は全く気になりませんでした。

箱の中からキャノンのファインダーキャップを探そうと、EOS Kiss X2の説明書を見ると、ファインダーキャップはストラップに付いていると書いてありました。そのキャップを見てこう思いました。「俺、ストラップは使わへんでぇ。フニャフニャだけど大丈夫かい?」と。

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そしてこれがキャップの有無による写りの違いです。左がキャップ無しで、右が有りです。露出時間は180秒です。周辺は真っ暗ですが、液晶の時間表示はかなり明るくて、説明書を見てもOFFにはできないようでした。かなり違いますよね。皆様もご注意ください。

それにしてもペンタックス*ist Dsで撮った2枚目の写真と比べて頂きたいのですが、それでもまだ赤く感じます。もしかしたら、*ist Dsの色に慣れて、それが当たり前になり、本当の色を忘れてしまったのではないかと思いました。そこで本当の色を求めて、過去にフイルムで撮った写真と比べてみました。フイルムスキャナーで読み取ってデジタル化したものです。

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角度が違いますが、銀河の中心方向を撮ったものでアンタレスも写っています。赤い星雲であるM8も赤く写っているし、コントラストもはっきりとしていると思います。露出時間は確か20分だったと思います。

それではこれらを吟味して再度銀河中心方向をEOS Kiss X2で撮ってみた写真がこちらです。露出は3分です。F2.9まで絞っています。

まだ赤いですが、これがコンポジット(合成)をしていないJPEGで撮影した天の川中心方向の写真です。ノイズリダクションもしていないし、ダークフレームを撮っての合成や減算処理もしていませんが、とにかく拡大して赤い散光星雲が赤く写っているのを確認してください。

ペンタックス*istDsで撮った2枚目の写真は、これらの赤い散光星雲が赤く写っておらず、茶色というか紫色になっています。やはり透過率が20%というフィルターによって、赤い色のほとんどが消されています。

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そして今回のハイライト。南天最大の赤い散光星雲であるエータカリーナを撮ってみました。極軸が途中から狂ってしまい、合わせ直した時には雲に覆われていたために、星が流れたものしかお見せできないことをおわびします。

「流れていてもエータカリーナ」とでも言ってしまいそうな風情があります。左が露出187秒で、カメラをひっくり返した後の右が120秒です。感度は相変わらずISO 800です。ボーグ77EDII + EDレデューサ F4DGを使っています。

この星雲を筆頭に、すぐ側には大小のマゼラン星雲が肉眼で見える南半球。南十字座ベクルックスのすぐ側にあるジュエリーボックス宝石箱星団など、天頂を通るさそり座といて座など、日本から考えるととんでもなく好条件で星を見る事ができるクィーンズタウン。良い所でしょう。

という事で、小生も本格的に写真を撮ろうと思い、ステライメージ Ver.6を導入することにしました。間もなく帰国する家族が持ち帰ってきてくれます。どのような世界が待っているのか大変楽しみです。と言いつつニュージーランドはこれから繁忙期で、年末年始の薄明終了時間は23時30分頃。寝る時間を削って頑張らないといけませんね。

そして今回実験ができなかった赤いオーロラに対する結果ですが、これはまた後日レポートします。主役の出現次第、撮影に出動するつもりです。実はこの1ヶ月で2回もオーロラが出た形跡があるのですが、1度目は皆と鍋パーティをしていて逃し、2度目の一昨日は満月に阻まれてしまいました。

赤いオーロラの波長は630.0ナノメートル。ある資料と照らし合わせると、赤外カットフィルターの透過率は約40%しかなく、緑色のすぐ上に出る赤色のオーロラでさえも紫色に変色してしまうようです。緑色のオーロラの波長577.7ナノメートルでさえ透過率は約87%。早い話、13%もカットされてしまうのです。

これらの数字を見ていると、一般のデジイチでオーロラを撮っても、本物の写真は撮れないということにはならないのでしょうか。一番下に出現するピンクオーロラ(波長は6710.5ナノメートル)に関しては、透過率12%だそうですので、ほとんどカットされてしまいます。

これから太陽が活動期を迎えると、とんでもない色のオーロラが出現します。色によって透過率が違うのでデジイチは使いづらくなります。やはりフイルムカメラか改造デジイチを多用することになると思います。冷蔵庫には念のためにフジフイルムの400×5本を冷やしてあります。衛星を管理している方々には申し訳ありませんが、フレア爆発を心待ちにしている今日この頃です。

今回は全く画像処理をしない写真を使いましたが、次回はもう少し改造デジタルカメラの事を掘り下げて書いてみたいと思います。

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