Google Earthを見てみますと、南緯45度線上に大地がある場所は、ここニュージーランド(NZ)の南島南部とパタゴニア地方だけだということがわかります。しかし、この周辺は(緯度が45度もあるにも関わらず)冬季の地吹雪や積雪はほとんどありません。冬でもスタッドレスタイヤを装着する車は皆無で、普通のタイヤで走っていて、ゲレンデに向かう人はタイヤチェーンを積んでいる程度です。山の中腹より上に雪が積もるだけなので、スキー場へ向かう土中の道路でチェーンを巻けば何の問題もありません。
多くの観光客が訪れる街クイーンズタウンに来て16年になろうとしていますが、この街は現在、増え続けるオーストラリア人のお客で賑わっています。その多くがゲレンデを目指し、毎朝ホテルの前でスキーバスがやってくるのを待っています。
私がこの街に住み続けているのは以前にもお話した通りです。慌しい世界を離れ、人間が人間らしく生活できる場所を求めてやってきました。ここにも電気、スーパーマーケット、病院、ガソリンスタンド、小学校など、生活に欠かせないものは一通り揃っています。もちろん、かなりの田舎ですから、信号がない、盲腸・帝王切開の手術ができないなど、驚くこともたくさんあります。日本と違って、お隣の家同士で防犯に務めるような話も聞きません。それもそのはずです、路上駐車の車に鍵をかけない人がたくさんいるくらいですから。
こんな田舎に住んでいる私はピュアなキラキラした心を持ち(笑)、この環境の中で二人の男の子を育てています。奥さんは美人で、私はキャイーンの天野君スタイル。でもこの体型で、天体撮影中の寒さを防ぎ、体重に物を言わせ、ゲレンデでの滑走スピードは誰にも負けません(笑)。と、良いことだらけ。日本の基準では胴囲が85センチを超えるとメタボリック症候群に含まれるそうですが、ここNZではそのような基準はありません。ですので私はメタボではなく、単なる小太りです(笑)。
そんな私が、毎晩皆さんに星空を案内しているわけですが、日中は旅行の仕事をしており、2種免許及び事業免許も持っており、車でお客様を街へ、そして空港へ案内しております。早い話、タクシー会社もできるわけです。
勿論スターウォッチングツアーも自らが運転し、ヘッドセットをつけて車内放送もしています。NZでは通常運転手がガイドをかねるというのが当たり前で、運転手は固定マイクやヘッドマイクに話をしながら車を走らせています。
こんな田舎のNZではありますが、幸運なことに私の住む南緯45度の街クイーンズタウンは、オーロラベルトの端に位置し、特に太陽が活動期に入ると度々赤いオーロラを撮影することができます。
オーロラベルトは、磁石の南極、いわゆる「磁南極」を中心にクロワッサン型に出現しますが、その磁南極がオセアニア両国寄りにあるために、オーストラリアとニュージーランドの南端部は、ベルトの中に入っています。磁気緯度(磁南極を南緯90度とした時の緯度のこと)では、当地は南緯53度になります。ここまで来れば、オーロラが見られるわけですね。ちなみに日本の磁気緯度は、東京、福岡で北緯27度、大阪で28度、札幌で36度と、さほど高くありません。
オーロラベルトが最大幅に広がった1989年の後半に、ここニュージーランドの南島最大の都市クライストチャーチでも一度だけオーロラが見られたことがあったそうです。クライストチャーチの磁気緯度は南緯51度ですので、その辺りがオーロラが10年に一度ほど見られる限界だと推測できます。故に、磁気緯度が北緯38度の宗谷岬でもオーロラを見ることはほぼ不可能なのでしょう。
聞くところによると、磁北極、磁南極ともに動いていて、約1万年後には両磁極が地理上の極点を越えて、その反対側にやってくるのだそうです。すると日本は磁北極からかなり近くなり、北海道では頻繁にオーロラを見ることができるようになるかもしれません。1万年後の話ですから、誰か生存している方がいればの話ですが・・・。
そんな気まぐれなオーロラですが、星が好きな人には3つの夢があるといい、オーロラはそのうちの1つに含まれているそうです。あとの2つは、皆既日食とニュージーランドで満天の星を見ることだそうです。私はこの地で贅沢にもその内の2つを満喫している訳です。もちろん「皆既日食は見に行かないのですか?」と度々たずねられますし、皆既日食を見れば、3つの夢を達成できます。
今年7月に見られた皆既日食の時も、トカラ列島中ノ島で天文台長をされている福澄さんを始め、多くの人から現地へ出撃しないのかと声を掛けられました。が、今まで一度も皆既日食を見たことがない私は、日食や月食に関しては定期的に必ず起こるものなので、少し冷めているのかも知れません。しかし、近くで起こったら一度くらいは見ておいても良いと思います。
実は、19年後の2028年の、今回の皆既日食と同じ日付の7月22日に、この街クイーンズタウンを中心線が通る皆既日食があります。私は64歳の誕生日を目の前にしたころで、この日食の中心線はシドニーのセントラル駅も通ります。2分55秒の皆既日食ですが、恐らくそれが最初で最後の皆既日食観測になるのではないでしょうか。
しかし、この皆既日食は第2接触が16時15分過ぎに起こりますので、真冬のクイーンズタウンではスキー客が街に戻る道中となります。その時の太陽高度は10度。第3接触は16時18分過ぎに起こり、太陽高度は9度。必然的に西の空が見渡せる丘に登って撮影をしていることでしょう。
64歳の老体に鞭打って、前の晩から望遠鏡の極軸を合わせているのでしょうか。いやその頃はガイド撮影なんて必要なくなっているかも知れませんね。ISO25600、いや51200、102400でほとんとどノイズなし・・・みたいになっていて、瞬時にコロナの模様が写ったりして。日進月歩で技術が進むデジタルカメラですから、その頃は次世代カメラが登場してたりして・・・。夢は膨らむばかりですが、若い世代の皆さんが、そんな開発に情熱を持って欲しいものです。
皆さんはこの3つの夢にとらわれずに、独自の夢を叶えるために行動を起こしていますか?私は昨晩徹夜状態でした。オーロラの出現を待っていたのです。7月22日に北米大陸の白夜のない地域、例えばカナダとの国境にあるノースダコタ州などで見られたようなオーロラが出ないかと待機していました。
太陽は27日周期で自転しています。先月の22日には、コロナホールから大きな磁場の塊が飛んできたのでしょう、大変綺麗なオーロラが出現しました。故に27日後の今晩、同様の出現がないかと期待しているわけです。しかし、今朝までに高速太陽風も到達していませんし、地球の磁場も南向きにはなっておらず、結局朝まで待機しましたが「空振り」でした。
太陽は地球よりも直径が100倍も大きいのに、3日ほどかけて地球に風を吹かせた挙句に、一日以上もずれることがある「生きている星」なのですね。まるで「女心と秋の空」ですね。そう太陽は女性なのかもと、思っているのは私だけでしょうか?ただ太陽風が吹かないかな・・・と願うのは今だけ。太陽が活動期の頂点を迎える頃には、太陽から四六時中高速風が飛んできて、南の空を撮ると邪魔なオーロラが写りこんで困る・・・と以前にも書きました。
日付が変わっても、依然高速太陽風が飛んできていません。27日前の出現が嘘のようです。これは明らかにおかしい・・・、どうやら気配がします。地球の磁場が南向きに変わりました。しかし、風速は毎秒350キロと低め。えっ今頃?と思いつつも、天候も良いし、充電もバッチリだし・・・ということで出撃。最初の1枚は緑色も赤色も写っておらず気配なし。750メートル付近に陣取ったのですが、もやってきたので、もう少し上に向かいました。海抜1000メートルです。ホワイトバランスをオートに変えて撮影してみると、やっと赤色オーロラが写りました。すると突然光線の中に吸い込まれました。休憩していたゲレンデ圧雪部隊が動き出し、そのヘッドライトに照射されたのです。そう私はスキー場に登ってきていたのです。露出中にファインダーから光が入ると感光してしまうそうなので、こういう時はファインダーキャップが手放せません。
そして、徐々に白い横線が浮かび上がり、緑と赤色のオーロラとして写り始めました。この地では、(1)地球磁場の南向き、(2)昼間でないこと、(3)天気が良いこと、(4)高速太陽風が吹く事、以上4つが重ならないとオーロラは見られませんが、私はこんな小出現でも大騒ぎをしてしまいます。これからも幾度となくオーロラの大出現に遭遇すると思いますが、オーロラベルトの端に位置するニュ−ジーランド南島南端部で見られるオーロラにこだわって、いつまでも追い続けたいと思います。
2年前の1月に出現したマクノート彗星の写真投稿をきっかけに連載をスタートすることとなりましたが、今回が最終回です。長い間有難うございました。日本の皆さんにはこれからも私の星空ツアー、サザンクロス☆スターウォチングツアーにて満天の星を紹介し続けます。その満天の星を世界遺産候補にする計画があるほどです。見ない手はないと思いますよ。
皆さんとはいつの日か、ここクイーンズタウンでお会いできる時までさようなら。おっと今晩もツアーの予約が入っています。そろそろ出発です。では、お元気で。