新理論が示す、ダークマターは湯川粒子に瓜二つ
【2015年7月30日 カブリIPMU】
様々な観測結果から、宇宙はダークマター(暗黒物質)と呼ばれる謎の物質が質量の80%以上を占めていること、そしてダークマターなくては星や銀河、私たちそのものも誕生しなかったことがわかっている。しかし、ダークマターがどのような性質を持つどういった物質なのかということは未だわかっておらず、現在、実験と理論の両面から活発に研究が行われている。
理論研究ではダークマターについて多種多様な予想がされており、ダークマターは通常の物質とは大きく異なる性質を持つ粒子だと多くの理論で考えられている。
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の村山斉さんらの研究グループはダークマターの候補として、パイ中間子と似た性質を持つ「SIMP(Strongly Interacting Massive Particle)」という粒子であるという新理論を発表した。
パイ中間子は湯川秀樹博士(1949年ノーベル物理学賞受賞)が1935年に提唱した粒子で「湯川粒子」とも呼ばれる。陽子や中性子など原子核を形作る核子間で力を媒介し原子核を安定的に保つとされ、その性質は南部陽一郎博士(2008年ノーベル物理学賞受賞)が1960年に提唱した「自発的対称性の破れ」という考え方で正確に記述されている。今回の新理論は、南部理論に基づく湯川粒子の性質がダークマターとしてふさわしいことを指摘したものだ。
新理論では銀河の構造について、今まで問題だった観測とコンピュータシミュレーションの間のずれを説明できるという。
「ダークマターの候補であるSIMPは、見たことのある粒子とよく似ていることに気づきました。強い力に現れる湯川粒子と同じような質量、同じような反応、そして同じような理論で記述できるのです。こうした研究から『我々はどこから来たのか』という深い謎に迫れるのは、たいへんエキサイティングです」(村山さん)。
現在、世界中でダークマターを探し出すための様々な実験が行われている。さらに、今年より再稼働を始めた欧州合同原子核研究機構(CERN)のLHC加速器や現在提案中のSHiP実験、日本の高エネルギー加速器研究機構(KEK)で準備が進められていSuperKEKBプロジェクトなどでもダークマターの候補の探索が行われる予定だ。こうした世界中の実験によりダークマターが発見され、数ある理論が確かめられることが期待されている。
〈参照〉
- カブリIPMU: 新理論が示す、ダークマターは湯川粒子に瓜二つ
- Physical Review Letters: Model for Thermal Relic Dark Matter of Strongly Interacting Massive Particles 論文
〈関連リンク〉
- Kavli IPMU-カブリ数物連携宇宙研究機構: http://www.ipmu.jp/
- CERN: http://www.cern.ch/
- 高エネルギー加速器研究機構(KEK): http://www.kek.jp/ja/
〈関連ニュース〉
- ダークマターの正体:
- 2015/03/30 - 銀河団衝突でも、ダークマター同士はすり抜ける
- 2015/01/05 - 宇宙の歴史を左右する、ダークマターの分布解明のカギ
- 2013/01/30 - ダークマターの正体を説明する画期的理論
- 2012/01/23 - 暗黒物質の分布を詳細に測定 その正体と形状にせまる
- 南部陽一郎さん:
- 2015/07/17 - 【訃報】南部陽一郎シカゴ大名誉教授 2008年ノーベル物理学賞受賞者
- 2008/10/07 - 日本出身3氏にノーベル物理学賞
関連記事
- 2024/06/10 ダークマターの塊が天の川銀河を貫通した痕が見つかった
- 2024/02/15 数百万光年の規模でダークマターを初検出
- 2023/10/31 バリオンとニュートリノも考慮した過去最大の宇宙論シミュレーション
- 2023/09/19 クエーサーが生まれるダークマターハローの質量はほぼ同じ
- 2023/09/08 ダークマターの小さな「むら」をアルマ望遠鏡で初検出
- 2023/05/09 宇宙背景放射からダークマター分布を調査、「宇宙論の危機」回避なるか
- 2023/04/18 宇宙論の検証には、銀河の位置だけでなく向きも重要
- 2023/04/11 すばる望遠鏡の探査が、宇宙の新しい物理を示唆
- 2023/03/10 小規模な装置でダークマター検出を目指す新手法
- 2023/02/13 ガンマ線観測でダークマター粒子の性質をしぼり込む新成果
- 2022/08/03 宇宙背景放射を使って遠方銀河周辺のダークマターを検出
- 2021/11/04 「富岳」で宇宙ニュートリノの高精度シミュレーションに成功
- 2021/09/17 宇宙の歴史を再現する世界最大規模のシミュレーション
- 2021/07/09 ダークマターの地図をAIで掘り起こす
- 2021/06/28 原子核をつなぐパイ中間子が軽い仕組みを理論的に証明
- 2021/06/25 ダークマター不足の銀河、謎は深まる
- 2021/05/14 ガスに隠れた遠方銀河
- 2021/03/29 見えざる巨大構造がヒヤデス星団を崩した
- 2021/03/19 宇宙解析の模擬試験
- 2021/02/08 古い矮小銀河の周りに広がるダークマターハロー