黒い岩肌がむき出しの熱い惑星
【2019年8月22日 スピッツァー宇宙望遠鏡】
2018年にNASAの系外惑星探査衛星「TESS」によって発見された系外惑星「LHS 3844 b」は、インディアン座の方向約48.6光年の距離にあり、半径は地球の1.3倍ほどだ。主星の「LHS 3844」は「M型矮星」と呼ばれるタイプの恒星で、表面温度は摂氏約2700度と低く、サイズは太陽の1/5ほどしかない。M型矮星は寿命が長く、数が非常に多いため、天の川銀河の惑星の多くはM型矮星を主星に持つと考えられている。
TESSは主星の前を惑星が横切ることで主星がわずかに減光する現象を見つけ出す「トランジット法」によって系外惑星を発見する。この方法の場合、惑星からの光は主星の明るさに埋もれてしまうため、惑星の光を直接検出することは難しい。
そこで、米・ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのLaura Kreidbergさんたちの研究チームは、NASAの宇宙望遠鏡「スピッツァー」を使ってLHS 3844 bを観測し、惑星からの赤外線を直接検出した。この惑星は主星から90万kmしか離れていないため、潮汐力によって主星にいつも同じ面を向けて公転しており、主星と向かい合う「昼」側の表面温度は約770℃にも達する。Kreidbergさんたちがとらえたのは、この高温の惑星表面から放射される赤外線だ。
観測の結果、LHS 3844 bの昼半球と夜半球の間で熱がほとんど移動していないことが明らかになった。もし惑星に大気があれば、昼側で熱せられた大気は膨張し、風が発生して夜側へと熱を運ぶはずだが、この惑星の熱の分布は主星に向かい合っている点をはさんで完全に東西対称になっていて、温度差が均されているような兆しがまったく見られなかった。「この惑星の昼夜の温度差は、この条件下で生じうる最大の値に近いものでした。惑星が大気を持たない『岩肌』モデルの場合と非常によく一致するものです」(Kreidbergさん)。
これまでにスピッツァーやハッブル宇宙望遠鏡によって、ガス惑星の大気についてはいくつも観測がされている。しかし今回のLHS 3844 bは、表面からの光を直接観測して大気の有無を判別できた例としては過去最小の惑星となりそうだ。「M型矮星を回る惑星でどのように大気が保たれるかという理論はたくさんありましたが、理論を実験的に検証することはできていませんでした。今回、太陽系外の地球型惑星としては初めて、大気が存在しないことを観測から断定することができました」(Kreidbergさん)。
惑星の大気が保たれたり失われたりする要因を知ることは、生命が存在できる環境を太陽系外で探す上で非常に重要だ。地球に液体の水が存在し、生命が繁栄できるのは、地球に大気があるおかげだ。火星の場合、大気圧が地球の1%にも満たないため、かつて火星の表面にあった海や河川は失われてしまった。
今回の観測によると、LHS 3844 bには地球の大気圧の10倍(=10気圧)より濃い大気は存在しないことが確実で、1〜10気圧の大気を持つ可能性もほとんどないという。これほど主星に近い惑星では、もし希薄な大気があったとしても、主星からの強力な放射や恒星風によって失われてしまうだろうと研究チームでは考えている。とくにM型矮星の場合、光度は太陽より弱いが、紫外線の放射は太陽より強い。若い段階のM型矮星であれば活動が激しく、フレアが頻繁に発生するため、生まれたばかりの惑星の大気を失わせてしまうかもしれない。
さらに研究チームでは、LHS 3844 bの表面の反射率の測定から惑星の化学組成も推定している。LHS 3384 bの表面は非常に暗い色をしていて、火山岩の一種である玄武岩で覆われているようだ。「月の海は太古の火山活動で形成されたことが知られています。私たちは、LHS 3844 bでも同じことが起こったのかもしれないと推定しています」(NASAジェット推進研究所 Renyu Huさん)。
(文:中野太郎)
〈参照〉
- Spitzer Space Telescope:NASA Gets a Rare Look at a Rocky Exoplanet's Surface
- Nature:Absence of a thick atmosphere on the terrestrial exoplanet LHS 3844b 論文
〈関連リンク〉
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