隕石内部に発見された小惑星の氷の痕跡
【2019年11月28日 東北大学】
太陽系初期の天体形成過程に関する情報を現在も記録しているのが小惑星や彗星といった太陽系の小天体だ。近年では小惑星や彗星をターゲットとする探査ミッションが多く計画・実行され、観測とサンプルリターン分析の両面から、太陽系天体の初期進化過程の解明が進められている。さらに、小惑星から飛来する隕石も、太陽系初期の情報が記録されている貴重な試料である。
小惑星由来の隕石には、氷が融けて生じた水と岩石との相互作用によって作られた含水鉱物が多く見つかっている。中でも、水や有機物を多く含む隕石である「炭素質コンドライト」は地球の水や生命の起源を探る重要な手がかりとされている。炭素質コンドライトの母天体の一部は、太陽から3auの距離(火星軌道と木星軌道の間、小惑星帯付近)にある雪線(太陽系内でH2Oが水蒸気から氷となる領域)より外側の低温領域で作られ、形成当時には氷を含んでいたと考えられている。しかし、水の素となった氷が小惑星内部にどのように分布していたのかはよくわかっていなかった。
東北大学の松本恵さんたちの研究チームは大型放射光施設「SPring-8」のX線CTを使って、炭素質コンドライトの一つAcfer 094隕石の内部を観察した。そして、氷が抜けてできたと考えられるマイクロサイズの空洞を多数発見し、その分布の様子を明らかにした。
Acfer 094隕石の内部に空洞があったことは、隕石の母天体が形成された時に空洞を埋めて支えた固体物質が存在したことを示している。その候補としては氷と揮発性の有機物が考えられるが、空洞周辺の観察によると、有機物が抜けた痕跡はなく、氷が融けて生じた水と岩石の相互作用の痕跡が見られた。このことは、空洞にもともと氷が存在していた可能性が高いことを示しており、隕石の母天体内部における氷の分布を知るうえで重要な手がかりとなる。
氷が抜けてできたと考えられる空間は直径10μm程度で、隕石中にまんべんなく見られた。このような大きさの氷は、太陽系の雪線より少し外側の領域で、温度上昇によって塵(氷とケイ酸塩粒子の集合体)に含まれる氷が昇華し、再び塵の表面に凝縮する焼結作用が起こることで形成される。塵は隙間のない「氷とケイ酸塩粒子の塊」に形を変えて小惑星に取り込まれ、その後に氷部分が融けてなくなることで、今回観察された空間が生じたと考えられる。実際にAcfer 094隕石内部には、氷が融けて生じた水により含水化したケイ酸塩粒子が多く含まれていた。
一方で、これらケイ酸塩粒子中の水の量を全てまかなうには、観察された氷の量よりはるかに多くの氷が必要であることもわかった。母天体内部の氷の分布は不均質であり、隕石が放出された場所とは別の所にもっと多量の氷が存在していたことを示唆している。
これらの結果から研究チームでは、Acfer 094隕石の母天体の形成について次のようなモデルを提案している。
- 隕石の母天体である小惑星は、雪線より外側では氷とケイ酸塩粒子からなる多孔質な塵を、内側では氷を含まないケイ酸塩粒子からなる多孔質な塵を集積して成長しながら、太陽系内を外側から内側に移動する。
- 雪線付近では、氷とケイ酸塩粒子からなる多孔質な塵が温度上昇による焼結作用を受け、氷とケイ酸塩粒子の隙間のない塊を形成する。それらは氷を含まない塵と共に小惑星表面に集積する。
- 小惑星内部で氷が融けて水が生じ、ケイ酸塩粒子の一部が含水化する。このときに氷が融けてなくなることで、今回観察されたマイクロサイズの空間が生じる。
- 小惑星の一部が破砕され、その破片が宇宙空間に放出され、隕石となって地球に飛来する。
このような太陽系初期の氷・岩石天体の形成過程に関する新たなモデルは、今後の隕石やサンプルリターン分析結果の解釈に新たな視点を加えるものとなるだろう。
〈参照〉
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