恒星間天体オウムアムアは水素製ではない

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恒星間天体オウムアムアの不思議な性質を、分子雲で誕生した水素ガスの「氷山」だとすることで説明する仮説が否定された。

【2020年8月24日 ハーバード・スミソニアン天体物理センター

2017年、観測史上初めて太陽系外から飛んできたことを示す軌道を描いて太陽に接近した天体「オウムアムア」は、当初は金属や岩石が主成分だと考えられていた。その後、太陽から遠ざかるオウムアムアがガスを噴射したかのような加速を見せたことから、この天体が彗星のように氷を多く含み、その氷が蒸発したことで加速したのではないかという説が唱えられた。ところが、赤外線衛星スピッツァーなどの観測によれば、彗星から蒸発したガスに豊富に含まれるはずの炭素を含む分子は、オウムアムアからは検出できなかった。

オウムアムアの想像図
オウムアムアの想像図(提供:The international Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA artwork by J. Pollard)

今年の5月、米・イェール大学のDarryl SeligmanさんとGregory Laughlinさんはオウムアムアに水素分子の氷が大量に含まれているという仮説を発表した。水素ガスであれば、オウムアムアを加速するほど噴出してもスピッツァーでは観測できない。また、オウムアムアは非常に細長い形状だと考えられているが、元々水素が主成分であれば、蒸発の結果そのように細長い天体が作られることを説明できるという。

この仮説は、水素の氷が高密度の分子雲で形成されうるという前提に基づいているが、前提が正しいかどうかはわからない。「水素の氷山はすぐに蒸発するので、数億年を要するであろうオウムアムアの長旅で生き残れないのではと疑っていました。また、分子雲の中で形成されうるということにも懐疑的でした」(米・ハーバード・スミソニアン天体物理センター Abraham Loebさん)。

Loebさんと韓国天文研究院のThiem Hoangさんは、地球に最も近い巨大分子雲の一つで1万7000光年の距離に位置する「W51」をオウムアムアの故郷かもしれないと考えて研究を行い、水素の氷がバラバラにならずに太陽系へたどり着くのは無理だろうという結論に達した。

恒星間を飛び交う電磁波、宇宙線、ガスなどによる影響が調べられたが、とりわけ破壊的だったのが恒星からの熱だという。さらに、分子雲の中でガスが衝突することにより天体が加熱され、水素が蒸発してしまうことにより、オウムアムアは分子雲を脱出することすらできない。それどころか水素の氷がマイクロメートル級の小さな塵粒に集まった時点で分子雲中のガスとの衝突により蒸発してしまうため、そもそもオウムアムアのように大きな水素分子の氷山は誕生さえしないという。

恒星間天体の素性は依然として謎のままだが、Loebさんは、もしもオウムアムアが唯一の独特な天体でなければ、その答えが得られるまでに、それほどの時間はかからないとみている。

「オウムアムアに様々な軌道を持つ仲間がいるのであれば、来年ファーストライトが予定されているヴェラ・ルービン天文台(旧称:大型シノプティック・サーベイ望遠鏡・LSST)の観測によって、1か月に1個くらいの割合でオウムアムアのような天体が検出されるはずです。どんな発見があるか期待しています」(Loebさん)。