小惑星ベンヌの表面にベスタのかけら
【2020年9月29日 NASA JPL】
NASAの探査機「オシリス・レックス」が訪問中の小惑星ベンヌは、より大きな母天体が衝突で砕けたときの破片から誕生したのではないかと考えられている。その母天体に衝突した天体は、4大小惑星の一つである「ベスタ」に由来するものだったのではないか、という研究成果が発表された。
米・アリゾナ大学月惑星研究所のDaniella DellaGiustinaさんたちの研究チームは、オシリス・レックスがベンヌの表面をとらえた画像を見た際に、周囲と比べて約10倍近くも明るいという一風変わった岩塊に注目した。
この岩塊の組成に関する手がかりを得るために反射スペクトルを分析したところ、そのスペクトルがベスタや、ベスタが破壊されてできたV型小惑星に見られる輝石に特徴的なものであることがわかった。「私たちは、ベンヌの南半球全体と赤道付近に散在している大きさ1.5~4.3mの岩塊を6つ発見しました。それらの岩塊は、ベンヌの残りの部分よりはるかに明るい色をしており、ベスタ上の物質と一致します」(米・アリゾナ大学月惑星研究所 Daniella Della Giustinaさん)。
はじめに研究チームでは、これらの岩塊がベンヌの母天体で形成された可能性を考えた。しかし、この岩塊に含まれる輝石は、岩石質の物質が高温で融けることで生成されるものだ。一方、ベンヌの大部分は含水鉱物を含む岩石から構成されており、ベンヌもその母天体も、水が失われるほどの高温を経験していないと考えられる。
また、天体衝突によって表面の一部が限定的に高温に熱せられるシナリオも検討されたが、大量の輝石を形成するほど激しい衝突は、母天体を完全に破壊してしまったはずだ。よってこの案も排除され、見つかった明るい岩塊は輝石が豊富に存在する小惑星に由来するという結論が導かれた。
「私たちの最有力な仮説は、ベスタが破壊された破片であるV型小惑星がベンヌの母天体へ衝突し、そこからベンヌがこれらの物質を受け継いだというものです」(NASAゴダード宇宙飛行センター Hannah Kaplanさん)。
小惑星の表面に別の小惑星からの物質がまき散らされている状況が珍しくないということは、さまざまな観測例が物語っている。今回見つかった岩塊の起源とされる小惑星ベスタでは、NASAの探査機「ドーン」が衝突クレーターの壁面に暗い物質があることを見つけており(参照:「3D動画で見る小惑星ベスタ」)、日本の探査機「はやぶさ」も、小惑星イトカワで黒っぽい岩塊をとらえた。さらに、今回の研究が発表されたのと同じ号の論文誌には、「はやぶさ2」がC型小惑星のリュウグウでS型小惑星の物質を見つけた成果が発表されている(参照:「リュウグウとベンヌの明るい岩塊は起源の違いを物語る」)。これらの事実は、多くの小惑星が軌道上で複雑に互いに作用し合い、時には天体同士が衝突や合体をしたりすることを示している。
今回の研究結果は、ベンヌが経た複雑な過去や他の太陽系内の小惑星の研究に役立つ。軌道の追跡・研究から、ベンヌは小惑星帯の内側の領域からやってきたことが示されている。小惑星のうちポラナ族とオイラリア族は、ベンヌのように炭素が多く暗い姿をしていることから、ベンヌの親小惑星の候補ではないかと考えられている。V型小惑星の形成は、ベスタ上にある約20億年前にできたヴェネネイア衝突盆地や10億年前にできたレアシルヴィア衝突盆地の形成と関わりがある。
「ベスタに似た物質が存在感を示す一方で他のタイプの小惑星が少ないように見えるという謎は、小惑星族やベンヌの起源がさらに研究されることで解明されるはずです。ベンヌから持ち帰られるサンプルの中に興味深い種類の岩石のかけらが含まれていることを期待しています。小惑星リュウグウでS型小惑星の物質が見つかったことを踏まえると、ますます注目せずにはいられません。両者の違いは、太陽系中で複数の小惑星を研究することの価値を示しています」(オシリス・レックス主任研究員 Dante Laurettaさん)。
〈参照〉
- NASA JPL:NASA's OSIRIS-REx to Asteroid Bennu:“You've got a little Vesta on you...”
- Nature Astronomy:Exogenic basalt on asteroid (101955) Bennu 論文
〈関連リンク〉
- OSIRIS-REx:
- Dawn
関連記事
- 2024/11/27 リュウグウの砂つぶに水の変遷史を示す塩の結晶を発見
- 2024/11/14 「COIAS」発見小惑星に「アオ」命名、15日に「命名祝賀会」配信
- 2024/10/08 二重小惑星探査機「ヘラ」、打ち上げ成功
- 2024/09/12 「にがり」成分からわかった、リュウグウ母天体の鉱物と水の歴史
- 2024/08/09 「はやぶさ2」が次に訪れる小惑星は細長いかも
- 2024/07/18 リュウグウ試料から生命の材料分子を80種以上発見
- 2024/06/12 「オシリス・レックス」の試料を受け入れるJAXA施設が完成
- 2024/05/09 リュウグウの試料中に、初期太陽系の磁場を記録できる新組織を発見
- 2024/03/19 『恋する小惑星』を追体験!Webアプリ「COIAS」
- 2024/01/29 リュウグウに彗星の塵が衝突した痕跡を発見
- 2024/01/11 「プラネタリウムの父」バウアスフェルドの名を冠した小惑星観測キャンペーン
- 2023/12/25 タンパク質構成アミノ酸が一部の天体グループだけに豊富に存在する理由
- 2023/12/15 リュウグウの岩石試料が始原的な隕石より黒いわけ
- 2023/12/15 2023年12月22日 ベスタがオリオン座で衝
- 2023/12/13 「はやぶさ2♯」の目標天体2001 CC21命名キャンペーン
- 2023/12/12 小惑星レオーナによるベテルギウスの食、世界各地で観測
- 2023/12/07 リュウグウ試料が示す、生命材料の輸送経路
- 2023/11/15 リュウグウ試料に水循環で生じたクロム同位体不均質が存在
- 2023/11/07 探査機「ルーシー」が最初の目標小惑星に接近、衛星を発見
- 2023/10/18 オシリス・レックスのカプセルを開封、試料から炭素・水の証拠