地球コア形成時に硫黄が果たした役割を解明

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地球内部を模した高温高圧実験から、鉄に取り込まれた硫黄は鉄と水素の反応を阻害することがわかった。誕生直後の地球において、硫黄は水素とともに鉄からなるコアと反応し、他の軽元素の取り込みを促進したかもしれない。

【2021年7月1日 東京大学大学院理学系研究科

現在の地球のコア(中心核)は主に鉄でできていると考えられるが、その密度は鉄よりも少し小さいことがわかっている。コアの密度を下げているのは水素、炭素、酸素、ケイ素、硫黄など鉄より軽い元素だと考えられるが、どの元素がどれだけ溶け込んでいるか、そしてどのようなプロセスでコアに入り込んだかを求めるのは困難な課題だ。

東京大学大学院理学系研究科 地殻化学実験施設の飯塚理子さんたちの研究チームは、含水鉱物と鉄を高温高圧にかける実験で、水の反応で鉄の水素化合物が形成されることを2017年に発表していた。水素が溶け込むことで、鉄の融点が下がり溶けやすくなるという効果もある。しかし、水素以外の軽い元素の寄与は明らかになっていなかった。

そこで飯塚さんたちは、始源物質となる鉄隕石や火星をはじめとする惑星のコアに多く含まれ、水素と同様に鉄の密度・融点を大きく下げる硫黄に着目し、高温高圧下で硫黄が鉄の水素化に及ぼす影響を調べた。実験には大強度陽子加速器施設「J-PARC」(茨城県東海村)の物質・生命科学実験施設「MLF」にある高圧ビームラインPLANETに設置された装置「圧姫」が用いられ、地球の始原物質である鉄、硫黄および含水ケイ酸塩の原料となる混合粉末の試料と、硫黄を含まない試料とが比較された。

PLANETの断面図と「圧姫」
(上)超高圧中性子回折装置PLANETの断面図。(下) PLANETにインストールされた6軸型マルチアンビル装置「圧姫」(提供:日本結晶学会誌 59「超高圧中性子回折装置PLANETで何ができるか?」

試料を加圧した後に段階的に加熱すると、混合粉末中の物質が脱水して水が生成され、それが鉄と反応して水素化鉄が生成されるが、硫黄が含まれる場合には硫化鉄が形成され、その硫化鉄に水素は取り込まれていなかった。最終的に鉄が取り込んだ水素の量を調べたところ、どの温度圧力においても硫黄を含む試料の方が少ないことがわかった。研究チームは硫化鉄が鉄の水素化を阻害しているのだと結論づけている。

解析結果の例
高温高圧下(6.7GPa, 1000K)で長時間測定して得られたデータの解析結果例。重水素化鉄(FeDx)の高温高圧相(fcc)には結晶構造中に重水素が取り込まれていたが、共存する硫化鉄(FeS)には重水素は取り込まれていなかった(提供:東京大学リリース、以下同)

鉄の高温高圧相中に取り込まれた重水素量と温度・圧力の関係
鉄の高温高圧相(fcc, hcp)中に取り込まれた重水素量と温度・圧力の関係(各データに添えられている数字は圧力値)。温度と圧力に対して正の相関を持ち、硫黄を含む試料では含まない試料に比べて重水素量が減少する。また、温度圧力が高くなっても、x~0.4付近に存在する溶解度ギャップを超えられないことが予想される

今回の研究から、水の存在下で水素は水素化鉄として、硫黄は硫化鉄としてともに固体の鉄に取り込まれることがわかった。この結果は、原始地球で始源物質が集積していく初期段階で、水素が固体の鉄へと優先的に溶け込み、水素化鉄と硫化鉄の共存によって鉄の融点を大幅に下げ、より低い温度で融けやすくなった可能性を示唆している。こうして溶融した鉄化合物中に、その他の軽い元素が徐々に取り込まれ、地球の中心へと沈み、最終的にコアが形成されたとみられる。

原始地球における鉄への元素取り込みのシナリオ
原始地球の形成過程における、鉄への元素取り込みのシナリオ。微惑星の集積時に固体の鉄へ水素と硫黄が取り込まれ、融点が降下してできた鉄メルトに他の軽い元素が濃集してコアが形成されたと考えられる。水がいつ、どの程度地球にもたらされたかがコア中の軽い元素の謎を解明する鍵となる