JWSTの画像に写っていた「赤い渦巻銀河」
【2022年12月9日 早稲田大学】
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の初成果として7月に発表された銀河団「SMACS 0723」の画像には、はるか遠方に位置する無数の銀河が精細にとらえられていて、大いに話題を集めている。早稲田大学理工学術院総合研究所の札本佳伸さんたちの研究チームは、その中に特異な「赤い渦巻銀河」が写っていることに注目した。
天の川銀河のように渦巻き状の腕を持つ「渦巻銀河」は、もっぱら近距離の、言い換えれば「最近の時代の」宇宙で見つかっている。ハッブル宇宙望遠鏡(HST)などによる従来の観測では、80億年以上前の初期宇宙には不規則な形状の銀河が多く、渦巻銀河はほとんど発見されていない。このことから、渦巻銀河の形が整うには宇宙誕生から比較的最近までの長い時間が必要なのではないかと考えられてきた。
また、すばる望遠鏡による大規模な探査によれば、現在の宇宙に存在する渦巻銀河の98%では活発に星が形成されている。そのため、渦巻銀河は生まれたての星の青い光で彩られがちだ。
札本さんたちが見つけた渦巻銀河は初期宇宙にあり、しかも赤い光を発している点で、従来の知見と大きく異なる。これらの銀河はHSTやNASAの赤外線天文衛星「スピッツァー」の観測で検出はされていたものの、形状や性質までは知られていなかった。スピッツァーの10倍の空間分解能と50倍の感度を持つJWSTの性能によって初めて渦巻きがとらえられたのだ。
「赤い渦巻銀河」は全部で21個見つかった。JWSTは赤外線をとらえるため、私たちの目に赤く見えているのは可視化するための擬似色だ。しかし他の銀河と比べると、これらの銀河は間違いなく波長が長い、つまり「赤い」傾向にある。遠方の天体から届く光は宇宙膨張の影響を受け、波長が長くなるため赤くなるが、その効果を考慮しても、これらの渦巻銀河は私たちが知るものより赤かった。
研究チームは、渦巻銀河の中で特に赤かった「RS13」「RS14」の2つを分析した。いずれも80億年から100億年前の初期宇宙に存在する銀河であり、RS14では星形成が行われておらず、年老いた星の光で赤くなっていることが確認された。
このように年老いた渦巻銀河は現在の宇宙では極めて珍しいものの、JWSTが最初に公開した深宇宙の画像で早速見つかっている。つまり、過去の宇宙では年老いた銀河はこれまで考えられてきたよりも多く存在するかもしれない。そうした銀河はどのように作られたのか。研究チームは、今後も赤い渦巻銀河の研究を進めていくことでいまだ謎多き銀河の成り立ちについて新たな知見を加えられると考えている。
〈参照〉
- 早稲田大学:初期宇宙に存在した赤い渦巻銀河を発見
- The Astrophysical Journal Letters:Red Spiral Galaxies at Cosmic Noon Unveiled in the First JWST Image 論文
〈関連リンク〉
- NASA - James Webb Space Telescope:
- STScI:
- Spitzer Space Telescope:
関連記事
- 2024/03/21 市民天文学とAIで渦巻銀河とリング銀河を大量発見
- 2024/01/16 最遠の渦巻銀河の円盤に伝わる震動を検出
- 2023/08/07 JWSTがとらえたリング星雲
- 2023/01/27 銀河中心から外れた位置に見つかった巨大エネルギー源
- 2023/01/20 宇宙初期の銀河の大きさと明るさの関係
- 2022/12/21 JWST、生まれたての星を取り巻く有機分子をとらえる
- 2022/10/26 JWSTによる「創造の柱」の新しい描像
- 2022/10/17 連星のダンスで生み出された17重のダストリング
- 2022/09/29 JWST、海王星の環や衛星を撮影
- 2022/09/08 JWSTが系外惑星を初めて直接撮影
- 2022/08/09 最遠銀河の候補をJWSTが撮影、赤方偏移16.7
- 2022/08/05 JWSTが車輪銀河を撮影
- 2022/07/14 ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の初成果
- 2022/05/10 JWSTの最終調整完了、科学機器の試運転へ
- 2022/03/25 JWST、鏡が揃って試験観測の結果は上々
- 2022/02/21 JWSTが主鏡調整用に恒星を初撮影
- 2022/01/26 ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が最終軌道に到達
- 2021/12/27 ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡、打ち上げ成功
- 2021/05/31 観測史上最古の渦巻き構造を持つ銀河
- 2020/08/14 渦巻銀河を人工知能で分類