オシリス・レックスのカプセルを開封、試料から炭素・水の証拠
【2023年10月18日 NASA】
9月24日に地球に帰還した小惑星探査機「オシリス・レックス」のカプセルは、着地した米国防総省ユタ試験訓練場近くの仮設クリーンルームに運ばれて分解され、カプセルから格納容器が取り出された。格納容器には着地後に地球の物質が混入している可能性があるため、容器内部に窒素ガスを流して汚染物質を追い出し、NASAジョンソン宇宙センターの宇宙物質キュレーション施設に送られて開封作業が行われた。
10月11日、格納容器から取り出された小惑星ベンヌの試料の最初の分析結果が、ジョンソン宇宙センターで開催された発表イベントで公開された。
格納容器には、オシリス・レックスの試料採取装置「TAGSAM」から採取ヘッドが分離されて納められているが、容器の蓋を開いたところ、採取ヘッドの周りや容器の蓋・底にも大量の試料がこぼれているのが見つかった。今回オシリス・レックスが持ち帰ったベンヌの物質は約250gと推定されている。これは「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの試料(5.4g)の40倍以上に当たる。
(左)蓋を開いた格納容器。中央にある円盤型の装置が試料採取装置「TAGSAM」の採取ヘッド。(右)格納容器の蓋の合わせ目にもベンヌの物質が大量に残っていた。画像クリックで表示拡大(提供:NASA動画より)
格納容器から取り出された採取ヘッド。試料採取時には裏返しの状態でベンヌの表面に接地し、窒素ガスを噴射して物質を取り込んだ。内部に黒っぽいベンヌの物質がたまっている。画像クリックで表示拡大(提供:NASA/Erika Blumenfeld & Joseph Aebersold)
開封後の最初の2週間で、オシリス・レックスの科学チームは試料を電子顕微鏡で撮影したり、赤外線分光観測、X線回折分析、元素分析などの簡易的な分析を行ったりした。また、ベンヌ粒子のX線CT撮影を行い、粒子の3Dモデルも生成されている。
電子顕微鏡での観察では、ベンヌ粒子から含水粘土鉱物、硫化物、磁鉄鉱、炭酸塩などの鉱物が見つかった。これらは液体の水が存在する環境で作られる鉱物で、リュウグウの試料からも見つかっている。
また、試料分析を担当するNASAゴダード宇宙センターのDaniel Glavinさんは、11日の記者会見で、ベンヌ試料に含まれる炭素の量が約4.7%に達することを明らかにした。
ベンヌ試料の電子顕微鏡写真。(左上)粘土鉱物の繊維状結晶。(右上)硫化物の板状結晶。(左下・右下)磁鉄鉱の結晶。画像クリックで表示拡大(提供:NASA動画より)
ベンヌ試料の粒子(左)に紫外線を当てた様子(右)。粒子に含まれている炭酸塩鉱物(方解石)が蛍光を発している。画像クリックで表示拡大(提供:NASA動画より)
「小惑星ベンヌの塵と岩石に保存されている太古の秘密を観察することで、私たちは太陽系の起源について深い洞察をもたらすタイムカプセルを開こうとしています。炭素を含む物質や含水粘土鉱物がたくさん見つかったことは、まだ氷山の一角に過ぎません。これらの発見は何年もの協力作業と最先端科学によってなしとげられたもので、地球の隣にある天体や生命の始まりを理解する旅へと私たちを後押しするものです。ベンヌから新たな発見があるたびに、私たちは宇宙の遺産が持つ謎に一歩ずつ近づけるでしょう」(オシリス・レックス主任研究者/米・アリゾナ大学 Dante Laurettaさん)。
科学チームは今後2年間にわたって試料の分析を行う予定だ。オシリス・レックスのプロジェクトは日本の「はやぶさ2」プロジェクトとも緊密に協力しており、ベンヌ試料の0.5%分は日本のJAXAに提供され、JAXAはリュウグウ試料の1%分をNASAに提供することになっている。また、カナダ宇宙庁(CSA)にもベンヌ試料の4%分が提供される。試料全体の70%分は将来のために保管され、残りが国内外の研究者に提供される予定だ。
初期分析結果を紹介した発表会の動画 "Revealing the OSIRIS-REx Asteroid Sample (Official NASA Broadcast in 4K)"(提供:NASA)
※星ナビ2023年12月号(11月4日発売)に解説記事を掲載します。
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