「オシリス・レックス」の試料を受け入れるJAXA施設が完成
【2024年6月12日 JAXA地球外物質研究グループ】
JAXA宇宙科学研究所(ISAS)(神奈川県相模原市)の「地球外試料キュレーションセンター」では、NASAの探査機「オシリス・レックス」が2023年9月に地球に持ち帰った小惑星ベンヌの試料を受け入れる準備が進んでいる。
このベンヌの試料はNASAとJAXAの合意に基づいて提供されるもので、「はやぶさ2」が地球に持ち帰った小惑星リュウグウの試料(約5.2g)の10%分がNASAへ、オシリス・レックスが持ち帰ったベンヌの試料(約121.6g)の0.5%分がJAXAへ、それぞれ提供されることになっている。
「はやぶさ2」とオシリス・レックスはともに炭素質小惑星からのサンプルリターンミッションで、同時期に行われたことから、両チームは様々な面で協力関係を築いてきた。たとえば、「はやぶさ2」の運用には日本国内のアンテナだけでなく、NASAの深宇宙通信システム「ディープ・スペース・ネットワーク(DSN)」のアンテナも使用された。一方のオシリス・レックスでは、リュウグウと似て岩塊だらけだったベンヌ表面に着陸する場所の選定などにあたって、2回の着陸を成功させた「はやぶさ2」チームの知見を活用するなどしてきた。
そのため、双方のミッションのリスクを補いあう目的や相互協力の見返りとして、互いに試料の一部を提供し合うことになっているのだ。
JAXAに分配されるベンヌの試料は約0.6gで、試料全体の特徴をよく代表する粒子や粉体をJAXA側がすでに選び、NASAの最終承認を待っている段階だ。試料が日本に到着するのは今年夏の予定となっている。
地球外試料キュレーションセンターでは、「はやぶさ」初号機が採取した小惑星イトカワの試料と「はやぶさ2」のリュウグウ試料が保管されていて、カタログへのデータ記載や公募研究向けの分配作業が続いている。今回新たに、ベンヌ試料を受け入れるためのクリーンルームが完成し、報道陣に公開された。
クリーンルームには、試料が地球大気に汚染されないように窒素雰囲気や真空下で試料を扱うクリーンチャンバーや、可視光線の顕微鏡、近赤外線の分光撮像装置などが準備されている。基本的にはリュウグウ試料を扱うクリーンルームとほぼ同じ構成だが、リュウグウ試料のキュレーションで得られた知見やノウハウを反映して、装置などの改良がされたという。
キュレーションセンターでは現在、ベンヌ試料のダミーを使ってリハーサルや機器の調整が行われている。試料が届き次第、試料全体の観察や粒子・粉体の取り分け、分光観察などを行って、2024年末ごろには研究機関への配分を始める予定だ。
キュレーション作業を統括するISAS地球外物質研究グループ長の臼井寛裕教授は、「リュウグウとベンヌの試料は一見見分けが付かないくらいよく似ている。どこが似ていてどこが異なるのか、なるべく試料の全体を見てサンプルチームに渡したい」と述べた。
NASAのオシリス・レックス科学チームでもベンヌ試料の分析が続けられている。今のところ、ベンヌ試料はリュウグウ試料と同じく、元素や同位体の組成は「イブナ型炭素質コンドライト」という最も始原的な隕石によく似ていて、様々な含水鉱物や揮発性元素、有機物を含むことがわかっている。一方で、ベンヌ試料の方がリュウグウ試料よりもマグネシウムリン酸塩やかんらん石をやや多く含むといった違いもみられるという。
「はやぶさ2」とオシリス・レックスの両ミッションで試料の分析に携わる、ISAS地球外物質研究グループの橘省吾特任教授は、「リュウグウとベンヌという2つの天体から同時期にサンプルが得られ、共通点と違いが見えているのはすごく楽しい。この共通点は、太陽系で普遍的に起こっている事実に近づくヒントになる。また、試料同士と探査機の観測データ同士の比較結果にも差があり、その原因がわかれば、今後の探査・観測における基準を作れると思う。(リュウグウとベンヌという)“1+1”が、明らかに“2”以上になると感じている」と述べた。
〈参照〉
- 地球外物質研究グループ:OSIRIS-RExサンプルリターンの記者説明会
- arXiv:Asteroid (101955) Bennu in the Laboratory: Properties of the Sample Collected by OSIRIS-REx 論文プレプリント
〈関連リンク〉
- JAXA宇宙科学研究所
- OSIRIS-REx:
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