従来の推定より月マントルが鉄に富んでいる可能性

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原初の月を模した条件下で測定した月マントルの主要鉱物の弾性波速度から、月の上部マントルが従来の推定より鉄を多く含む可能性が高いことがわかった。月の進化の手がかりとなる成果だ。

【2026年4月24日 愛媛大学

地球の唯一の衛星である月は、約45億年前に火星サイズの原始惑星「テイア(Theia)」が若い地球に衝突したことで形成されたというのがその起源の有力な説だ。

誕生直後の月は表面がどろどろに溶けた高温状態(「マグマオーシャン」と呼ばれる)にあり、その後冷えていく過程で鉱物や鉄の量が異なる層が結晶化し、現在の内部構造が形成された。月には地球のような風化やプレートテクトニクスがほとんど存在せず、その内部構造は形成当時の状態を比較的よく保たれていると考えられている。そのため、月の内部を探ることが初期地球の組成や地球・月系の進化を理解する手がかりとなる。

巨大衝突のイラスト
テイアの衝突が月の起源とされる(提供:NASA/JPL-Caltech

現時点で、月内部のようすは主にNASAのアポロ計画で設置された地震計のデータ(月震データ)に基づいて推定されているが、地震波(弾性波)の速さを具体的な鉱物組成に結び付けるには、月マントルを構成する鉱物を伝播する弾性波速度を高圧高温条件下で測定する必要がある。しかし、地球の鉱物に比べて月の鉱物に多く含まれている鉄は高温高圧実験が非常に難しいため、その物性データはこれまで不十分だった。

愛媛大学先端研究院地球深部ダイナミクス研究センターの井上義洋さんたちの研究チームは、大型放射光施設SPring-8のマルチアンビル型超高圧高温装置を用い、超音波測定と放射光X線測定を組み合わせて、月マントルの主要鉱物と考えられている直方輝石のP波・S波の速度と密度を、最大5.5万気圧、約1000℃(1273ケルビン)の条件下で測定した。さらに、得られた弾性データと鉄に富むかんらん石の既存データを組み合わせ、月上部マントルの岩石モデルにおける地震波速度と密度を計算した。

月の構成鉱物の弾性波速度の測定から内部構造を探るイメージ画像
月の構成鉱物の弾性波速度を測定して内部構造を探る(提供:愛媛大学)

その結果、月の上部マントル(深さ40~740km)の地震観測データを説明するには、約20モルパーセント(mol%=組成中の特定の物質の割合の指標)の鉄を含むマントル組成が必要であるという結論が導かれた。この結果は、従来モデルから推測されていた13モルパーセントという値に比べて、月マントルが鉄に富んでいる可能性を示している。

今回の研究成果は、地球・月系の形成および進化のシナリオに重要な示唆を与えるものだ。例えば、巨大衝突を引き起こしたテイアは従来考えられていたよりも高密度で鉄に富んでいたかもしれない。また、初期の月はより活発な火成活動や内部ダイナミクスを持っていたかもしれず、その結果として、より速い冷却過程や長期間持続する磁場生成(ダイナモ)が起こっていた可能性も考えられる。

月の上部マントル岩石のP波、S波速度および密度モデル
月の上部マントル岩石のP波(a)V波の速度(b)および密度(c)モデル(横軸は深さ)。(緑の実線)鉄の割合が20モルパーセントの月上部マントルの岩石モデル、(緑の破線)鉄の割合が13モルパーセントの月上部マントルの岩石モデル、(黒の実線と破線)観測に基づく月の上部マントルの地震波速度モデル。20モルパーセントのモデルと観測に基づく地震波速度モデルとの間で、P波・S波の速度は一致するが密度は一致していない。研究チームでは、直接的に説明できる根拠として地震波速度を重視し結論を導いた。画像クリックで表示拡大(提供:Y. Inoue et al.

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