天文との出会い
第16回 「誰でも簡単に撮れる
シャープな月面写真の写し方」

Writer:中川 昇

《中川昇プロフィール》

1962年東京生まれ。46才。小学3年生で天文に目覚め、以来天文一筋37年。ビクセン、アトム、トミーと望遠鏡関連の業務に従事。現在、株式会社トミーテックボーグ担当責任者。千葉天体写真協会会長、ちばサイエンスの会会員、鴨川天体観測所メンバー、奈良市観光大使。

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はじめに

ボーグ125SD+EOS40Dの撮影風景

ボーグ125SD+EOS40Dの撮影風景

前回も述べましたが、一眼デジカメの高性能化・低価格化に伴い、以前と比べると超望遠撮影の敷居は飛躍的に下がりました。これは野鳥も天体も同じです。天体では、明るさも大きさも手ごろな月面は一眼デジカメの撮影対象としては非常に魅力的です。街中でも全く問題なく撮影でき、天体写真の入り口としてはこれ以上ない被写体だと思います。

そこで今回は、お持ちの望遠鏡と一眼デジカメを使用して、驚くほどシャープな月面写真を撮影するにはどうしたらいいかを、私の経験からご案内します。

デジタル時代の月面写真:7つのコツ

フイルム時代にも私は、月面写真だけで累計数万枚に及ぶ撮影を行いました。その世界はまさに職人芸そのもので、「同じ写真はこの世で誰も撮れない」というプライドを持ちながら撮影をしていました。もう20年以上も前の話です。ところが、時代は大きく変わり、「同じ写真は誰でも撮れる」という時代がやってきました。マニアには面白くないかもしれませんが、月面写真が一般の人にも身近になってきたという大きなメリットがあり、これは見逃すことはできません。ただ、「誰でも撮れる!」といいながらも、それなりのコツはあるので、以下7つのポイントに分けて、詳しく説明します。

< 1. 小さく撮って、大きく伸ばせ!>

月面 BORG125SD+1.4倍+EOS40D

月面 BORG125SD+1.4倍+EOS40D(中川 昇 撮影)

このポイントは重要です。どうしても最初は画面一杯に月面を写しがちですが、大きく伸ばすとシャープな写真を撮ることが難しくなります。可能な限り小さく撮って、トリミングして大きく伸ばすことが最大のポイントです。具体的には、直焦点(101EDなら640mm、125SDなら750mm)か、1.4倍テレコンバーター併用(101EDなら約900mm、125SDなら約1000mm)でじゅうぶんです。それ以上の焦点距離で撮影できる条件が揃うのは、日本では年に数えるほどです。

< 2. シャッターブレ、ミラーショックは大敵>

BORG125SD+EOS40Dの接眼部

BORG125SD+EOS40Dの接眼部

これも重要です。最近の一眼デジカメは相当ブレにくくなっているとはいえ、やはりブレがあるとシャープな写真にはなりません。できるだけ早いシャッター(125分の1秒以上)を切ると同時に、ライブビュー、無振動モード、セルフタイマー、リモコンなどの機能をフルに利用して、極力ブレを防ぐことが肝要です。

< 3. ピント合わせは命>

EOS40Dのライブビュー

EOS40Dのライブビュー

ピントが写真の命であることは、デジタルでも同じです。とくに小さく撮るということは、ピントがシビアであるということです。ライブビュー搭載のカメラですと、中央部分を拡大する機能があり便利です。とくにキヤノンEOS40Dのライブビューはダントツに使いやすいです。ライブビューがないカメラの場合、カメラのファインダーだけでは心もとないので、マグニファイヤーを使用するか、ピントを少しずつずらしながら撮影する方法が確実です。

< 4. シーイングを見極める>

シーイングとは、気流の状態を言います。気流が落ち着いて月面の細かい模様が良く見える日は、「シーイングが良い」と表現し、気流が乱れて流れの速い川底の石を見るような日は、「シーイングが悪い」と表現します。実はこのシーイングを見極めるのが、職人芸の世界なのです。慣れてくると望遠鏡を見なくてもシーイングの良し悪しが分かるようになりますが、そうなるには数年はかかるでしょう。一般的には、「秋冬は悪く、春夏が良い」「高度が高いと良く、低いと悪い」「夕方は悪く、朝方は良い」という関係にあります。ですから、これからは月面写真に向いた季節になります。この辺りの情報は連載の第11回に詳しく書いてありますので、参照してください。

< 5. 数を撮れ!>

これはデジタル時代になって、大変有利になった点です。以前はフイルム代、現像代を気にしながらの撮影でしたが、デジタル時代になり、コストを気にせず連写できるようになったのは大きなポイントです。ただ、撮影後の画像チェックがなかなか大変です。

< 6. 月の高度が高い時を狙え!>

月面 BORG125SD+1.4倍+EOS40D

月面 BORG125SD+1.4倍+EOS40D(中川 昇 撮影)

これは、4.でお話したシーイングとも絡んできますが、高度が低いと月の色も濁ってきますので、月面らしい色を再現するためにも、高度は重要です。ただ、月齢によってはそういかないことも多いので、高度が稼ぎやすい時期を選ぶことも大切です。この辺りの情報も連載の第11回に詳しく書いてありますので、参照してみてください。なお、キヤノンEOS40Dは、色の濁りが少ない点でも非常に優れています。

< 7. 画像処理は「シャープ」に絞れ!>

さて、最後は画像処理です。私は画像処理が苦手で、フォトショップのごく一部の機能しか使っていませんが、それでもじゅうぶんな画像は得られるようです。まずは、トリミングです。なるべく画面一杯になるように切り取ります。次はシャープとアンシャープです。私の場合、リサイズ時にシャープをノーマルで、アンシャープを100%かけるのが普通です。ただ、シャープのかけすぎは画質を損ないますので禁物です。

以上で、(恐らく)かなりシャープな月面写真が撮れるはずです。皆さんもぜひチャレンジしてみてください。良い月面写真が撮れたら、アストロアーツの投稿画像ギャラリーボーグの例画像集に投稿してみてはいかがでしょうか?

終わりに

いかがでしたでしょうか。これだけ気をつけるだけでも、今までとは違う月面写真が得られると思います。さらに、自動追尾+筒先開閉+真夏の明け方に見る下弦の月+最高のシーイング+拡大撮影用アイピースによる拡大+月面向きの一眼デジカメ(EOS40Dが現状ベストバイ)+高度な画像処理などの好条件が揃えば、あっと驚くような月面写真が撮れることでしょう。私もこの夏は一眼デジカメを使い本気で月面写真を撮ってみようと燃えています。その時は、この連載かボーグのホームページでご紹介したいと思います。

いずれにしても、以前はごく一部の人のものだったシャープな月面写真が誰にでも簡単に撮れる時代になりました。この素晴らしいチャンスが生かし、一人でも多くの方が天体写真の面白さに気づくことを願っています。月は大きな望遠鏡でなくともじゅうぶんに良く写りますので、その点でも入りやすい撮影対象です。ボーグで撮影した作例画像集も参照いただければ幸いです。

次回は、拡大撮影の方法について解説します。天気が心配ですが何とかがんばって、月面のアップや惑星(土星と木星が見ごろです)の撮影のコツについて、ご案内する予定です。

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