M87ブラックホール周辺の偏光から磁場の様子をとらえた

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2019年に発表されたEHTによるブラックホールシャドウの観測から、ブラックホールを取り巻く光の偏光と磁場の様子が初めて明らかになった。

【2021年3月31日 EHT-Japan

イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)は、地球上の各地にある電波望遠鏡を連携させて、口径が地球サイズに相当する仮想的な巨大電波望遠鏡を構築するプロジェクトだ。月面に置いたゴルフボールを見分けられるほどの超高分解能を実現し、「黒い穴」のように見えるとされるブラックホールの直接撮影を目指して開始された。

EHTは2017年に8つの望遠鏡をつないでおとめ座の方向5500万光年の距離にある巨大楕円銀河「M87」の中心ブラックホールを観測し、史上初めてブラックホールの影(ブラックホールシャドウ)とそれを取り巻くリング状の光の像をとらえることに成功した。この成果は2019年4月に発表されて大きな話題となった(参照:「史上初、ブラックホールの撮影に成功!」)。

EHTプロジェクトチームは、このときに得られた観測データの解析を現在も続けており、ブラックホールを取り巻く光(電波)が偏光していることを突き止めていた。

ブラックホールシャドウ
EHTで撮影されたM87のブラックホールシャドウ周辺の電波画像に、偏光の観測データを流線表示で重ねたもの。流線の方向が偏光の向き、流線の明るさが偏光の強さを表している(提供:Event Horizon Telescope Collaboration)

可視光線や電波などの電磁波は、電場と磁場の振動が横波として伝わる現象だが、自然光のような普通の電磁波には様々な方向に振動する波が混ざっている。縄跳びの両端を二人で持ち、一方の端を振って波を作るときに、振り動かす方向を縦・横・斜めなどに変えると振動面の向きが違う波ができる。自然光はこのように様々な振動面の光が混ざった状態だ。だが、水面で反射した光やある種の物質などを通過した光は、特定の振動面を持つ光だけを含んだ状態になる。このように振動面の向きが揃った電磁波を「偏光」と呼ぶ。

宇宙では、磁場が存在する場所で発生した光や磁場を通過した光に偏光がみられることが多い。したがって、観測した光の偏光の向きがわかれば、そこに存在する磁場の情報が得られる。

EHTの研究チームがM87のブラックホール画像に記録されている偏光を解析したところ、リング状の像に沿って偏光の向きが渦を描くように分布していることが明らかになった。

EHTが撮影したブラックホール周辺の光は、磁力線に捕らえられた荷電粒子が高速で運動するときに出る「シンクロトロン放射」という光だと考えられている。シンクロトロン放射は、磁力線に巻き付く粒子の軌道面に平行(=磁力線に対しては垂直)な向きに偏光する性質がある。研究チームでは、M87のブラックホール画像に記録されている偏光の向きをモデル計算と比較した結果から、リング像をドーナツのように取り巻く磁場の分布(ポロイダル磁場)が存在するのかもしれないと考えている。今回の結果は、ブラックホールのすぐそばに強く整列した磁場が存在することを直接示した世界初の証拠といえる。

M87中心部
M87の中心部を、分解能が異なる3つの電波望遠鏡アレイで撮影した偏光画像。(左上)アルマ望遠鏡で得られたM87中心部とそこから伸びるジェット。白線の長さが1300光年。(中央)VLBAで撮影されたジェットの根元のクローズアップ。白線の長さが0.25光年。(右下)EHTによるブラックホールシャドウ周辺部の画像。白線の長さが0.0063光年(400天文単位)。3つの画像とも、流線の方向が偏光の向き、流線の明るさが偏光の強さを表す。画像クリックで表示拡大(提供:EHT Collaboration; ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Goddi et al.; VLBA (NRAO), Kravchenko et al.; J.C. Algaba, I. Martí-Vidal)

「EHTは急速な進歩を遂げており、ネットワークの技術的アップグレードが行われ、新たな観測所が加わっています。将来のEHT観測により、ブラックホール周辺の磁場構造がより正確に明らかになり、ブラックホール近傍の高温ガスの物理を詳しく知ることができると期待しています」(台湾・中央研究院天文及天文物理研究所 Jongho Parkさん)

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