星形成活動が劇的に上昇した大小マゼラン雲
【2019年1月29日 アメリカ国立光学天文台】
アメリカ国立光学天文台(NOAO)および米・モンタナ州立大学のDavid Nideverさんたちの研究チームが、天の川銀河の伴銀河である大マゼラン雲と小マゼラン雲に含まれる星のデータから、両銀河の星の形成史に関する研究を行った。
星のスペクトルを調べると、星の運動や温度、化学組成、さらに一生のうちでどの段階にあるかといった情報がわかる。これらの情報から、銀河の中でどの時代にどのくらい星が作られていたかという歴史を推測することができるのだ。
重い星は寿命が短く、一生の最期に超新星爆発を起こして重元素(水素とヘリウム以外の元素)を銀河内へ放出する。放出された元素は銀河内のガスと混ざり合って次世代の星の材料となり、旧世代の化学組成が受け継がれた星が誕生する。こうしたプロセスが何度も繰り返されるうちに、大質量星よりも寿命の長い低質量星には、銀河内で重元素が増えていく歴史が記録されていく。そこで星々の重元素量をマッピングすると、銀河の星形成史を読み解くことができるというわけである。
研究の結果、大小マゼラン雲内の星形成の歴史が天の川銀河とは完全に異なっていることが示された。「天の川銀河では、星形成は最初のうちは非常に活発でしたが、その後は落ち着きました。対照的に、大小マゼラン雲の星形成は、最初のうちは天の川銀河の50分の1ほどと非常にゆっくりでしたが、今から20億年ほど前に急上昇へ転じたようです」(米・ユタ大学 Sten Hasselquistさん)。
大マゼラン雲と小マゼラン雲で星形成率が急上昇した原因は、両銀河の相互作用や、両銀河と天の川銀河との相互作用だと考えられている。「大小マゼラン雲の一生は宇宙の比較的孤立した一角でひっそりと始まったため、星形成がほとんどありませんでした。数十億年前から天の川銀河を含む銀河同士の相互作用によってガスが圧縮されて、星が誕生するようになったのです」(Nideverさん)。
大小マゼラン雲は今後数十億年の間に天の川銀河へと引き込まれ、合体が進んでいく。それにつれて、両銀河内の星形成はさらに激しくなるだろう。25億年以内には、大マゼラン雲は完全に天の川銀河に飲み込まれる。大小マゼラン雲の一生はゆっくりと始まったが、劇的な結末が待っているようだ。
〈参照〉
- NOAO:Milky Way’s Neighbors Pick Up the Pace
- The Astrophysical Journal:The Lazy Giants: APOGEE Abundances Reveal Low Star Formation Efficiencies in the Magellanic Clouds 論文
〈関連リンク〉
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