小惑星で測定、2700光年彼方の星の大きさ

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恒星の手前を小惑星が横切る現象を利用して、2700光年彼方に位置する星の大きさが測定された。

【2019年4月22日 ドイツ電子シンクロトロン研究所

恒星は(日常感覚の基準では)とても遠いところにあるため、その見かけの大きさである「視直径」は非常に小さくなる。その小さい視直径を測定する方法の一つに、光の回折現象を利用するというものがある。星の手前を月や小惑星が横切る際に、星からの光が水面の波紋のようなパターンを見せる。このパターンは光源の見かけの大きさに依存するので、回折パターンをとらえることができれば星の視直径がわかるのだ。ただし、月や小惑星が恒星を隠す掩蔽現象を観測できる機会は少なく、そのうえ回折パターンは高速でとらえる必要があるため、観測は簡単ではない。

恒星の前を小惑星が通過する際に見られる回折パターンのイラスト
小惑星が恒星の手前を通過する際に起こる光の回折のパターンを誇張して描いたイラスト(提供:DESY, Lucid Berlin)

独・ドイツ電子シンクロトロン研究所のTarek Hassanさんたちは、米・ホイップル天文台に設置されている12m望遠鏡4台から構成されるシステム「VERITAS」(Very Energetic Radiation Imaging Telescope Array System)を使って、小惑星による掩蔽現象の観測に挑んだ。

VERITASの本来の目的は、宇宙空間で発生した高エネルギー粒子やガンマ線が地球大気中を通過する際に発生する非常に短時間のかすかな青い光「チェレンコフ光」を観測するという、高エネルギー現象に関するものだ。光学的にベストな画像の取得には不向きだが、星の光が高速で変化するような現象に対する感度が非常に高いという特長が、今回の研究では活かされた。

研究チームは2018年2月22日に、直径60kmの小惑星「インプリネッタ((1165) Imprinetta)」がコップ座方向の10等星「TYC 5517-227-1」を隠す現象を観測し、毎秒300枚の画像を取得して、光の回折パターンをはっきりととらえることに成功した。この結果から、TYC 5517-227-1の視直径が0.125ミリ秒(満月の見かけの約1400万分の1、人間の視力で約50万相当)と測定された。別の方法によりこの星までの距離が約2700光年とわかっていることから、星の実際の大きさは太陽の11倍ほどであると計算され、同星が赤色巨星であることが示された。

また、3か月後の2018年5月22日には、直径88kmの小惑星「ペネローペ((201) Penelope)」 がおとめ座方向の10等星「TYC 278-748-1」を隠す現象も観測され、回折パターンから星の視直径が0.094ミリ秒と測定された。直接測定された視直径としては最小の記録となる。この星までの距離は約700光年であり、そこから星の実際の大きさが太陽の2.17倍であると計算された。これは別の方法で推測されていた大きさとよく一致している。

波長域を狭くして回折パターンを鮮明にするといった工夫により、測定精度はさらに向上すると見込まれている。小惑星による恒星の掩蔽を利用して視直径を測定するという今回の新手法は、従来よりずっと遠い恒星の分析を可能とするものであり、その結果得られる情報から恒星の研究がさらに進むことが期待される。