TRAPPIST-1の地球型惑星は一度大気を失い、回復した
【2020年2月4日 アストロバイオロジーセンター】
TRAPPIST-1はみずがめ座の方向約40光年の距離にある赤色矮星で、質量は太陽の9%ほど、表面温度は約2500Kとかなり低温の星だ。2015年から2017年にかけて、この恒星の周りに7個の惑星が発見された。惑星の直径はいずれも地球の0.3~1.1倍で、7個のうち3個はハビタブルゾーン(主星からほどよい距離にあって液体の水が存在できる範囲)に存在している。また、惑星が主星の手前を通過する「トランジット」の際に行われた分光観測から、7個の惑星のうち6個には何らかの大気が存在すると考えられている(参照:「TRAPPIST-1の惑星に地球に似た大気や大量の水が存在か」)。
一般に、惑星が大気を持つ過程には2種類ある。一つは惑星が生まれた原始惑星系円盤の水素やヘリウムのガスを惑星が重力で引きつけて自らの大気にするパターンで、こうしてできた大気を「一次大気」という。木星などの巨大ガス惑星の大気はこうして作られたと考えられている。
もう一つのパターンは、原始惑星系円盤からガスが消え去った後の時代に、原始惑星に別の小天体が衝突したり火山活動が起こったりすることで、固体物質から二酸化炭素や水蒸気などが放出されて惑星大気になるというもので、こうしてでできた大気は「二次大気」と呼ばれる。現在の地球や金星の大気は二次大気だと考えられている。
二次大気に含まれる二酸化炭素や水蒸気は温室効果によって惑星を温暖な環境に保つ働きを持つ。また、一次大気に含まれる水素も、惑星表面の温度を上げる効果を持つとされている。そこで、惑星環境が生命の存在に適しているかどうかを考える上では、大気が一次大気なのか二次大気なのか、またどんな成分がどのくらい含まれているかを知ることが重要だ。
アストロバイオロジーセンターの堀安範さんと国立天文台の荻原正博さんは、水素を多く含む一次大気に着目し、TRAPPIST-1の惑星が一次大気を得てから現在まで保持し続けることができるかどうかを理論計算で調べた。
その結果、惑星が作られる初期段階では、TRAPPIST-1の7個の惑星はそれぞれ惑星質量の0.01%から数%を占める量の一次大気を原始惑星系円盤のガスから取り込むことがわかった。しかしその後、主星から放射されるX線や紫外線によって、長くても数億年たつとすべての惑星の一次大気が宇宙空間に散逸して失われてしまうことも明らかになった。
この結果から堀さんたちは、現在のTRAPPIST-1の惑星に大気が存在するとすれば、それは一次大気が失われた後の時代に生じた二次大気である可能性が高いと結論している。今後、TRAPPIST-1の惑星の大気組成を詳しく知るためには、2020年代に打ち上げが予定されているNASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などによる観測が重要になるだろう。
(文:中野太郎)
〈参照〉
- アストロバイオロジーセンター:TRAPPIST-1周りの7個の地球サイズの惑星には大気がある?
- The Astrophysical Journal:Do the TRAPPIST-1 Planets Have Hydrogen-rich Atmospheres? 論文
〈関連リンク〉
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