小惑星での有機物生成を再現する実験
【2021年5月11日 東北大学】
地球上で生命の材料となった有機物は、隕石によってもたらされたという仮説がある。実際に地球に飛来した隕石からは生命活動で重要な役割を担うアミノ酸や糖が見つかった例があり(参照:「隕石から核酸の材料となる糖を初めて検出」 )、隕石の起源である小惑星を調べたJAXAの探査機「はやぶさ2」やNASAの探査機「オシリス・レックス」のミッションでも有機物に注目が集まっている。ただ、その有機物がどのような環境で、どのような反応で作られたかについては諸説あった。
有機物の起源を知る手がかりと考えられてきたのが、有機物中の炭素原子の同位体だ。炭素には12Cと中性子が1つ多い13Cという2つの安定同位体があって、化学反応などの際にわずかに異なる挙動を示す。
東北大学大学院理学研究科の古川善博さんたちの研究グループは、炭素質隕石に含まれるアミノ酸などの生命関連有機物が13Cを多く含み、逆に隕石中の主要な有機物である不溶性有機物が12Cを多く含むことに着目した。古川さんたちは隕石中の有機物を生成しうる反応として先行研究で提案されていた「ホルモース型反応」を実験室で再現し、合成されたアミノ酸と不溶性有機物の同位対比が隕石の有機物の特徴と合致することを示した。
ホルモース型反応は、アルカリ性水溶液中でホルムアルデヒドから糖を合成する「ホルモース反応」を主体とした反応である。小惑星内部に閉じ込められた水が高温高圧になる環境にあれば、この反応が起こりうる。一方、低温環境でも微粒子表面で光化学反応によるホルモース型反応が起こる可能性がある。
従来の議論では、隕石の炭素同位体組成を再現するには10K(-263℃)以下の極低温環境が必要だと考えられていた。ただし、これではアミノ酸と不溶性有機物両方の炭素同位体比を説明することができていなかった。古川さんたちの研究結果はこの問題を解決するとともに、有機物が太陽系内の広い範囲で合成されていたことを示唆するものである。
〈参照〉
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