天体衝突が残す鉱石、わずか1億分の1秒で生成
【2021年7月21日 神戸大学】
誕生直後の太陽系は、小天体が頻繁に衝突を起こす環境だった。衝突と合体を繰り返すことで地球などの大きな天体が形成され、現在の太陽系の姿になったのである。そのため、初期太陽系の様子を知るためには、そこで起こっていた衝突に関する情報が必要となる。
衝突は天体の外見を変化させるだけでなく、衝撃圧縮によって構成物質の状態を変化させる。地球は成長の過程で表面が溶けるほどの高温になっているため、衝撃圧縮の痕跡は失われているが、そこまで成長しなかった小惑星や、その破片が地球に飛来した隕石には、衝突で変化した物質が残っていると考えられてきた。
衝撃圧縮で形成された可能性のある鉱物として挙げられるのがリングウッダイト(γ-(Mg, Fe)2SiO4)である。これは普遍的に見られるカンラン石(α-(Mg, Fe)2SiO4)と同じ化学成分だが、原子の配列が異なり密度の高い結晶だ。さらに別の原子配列も見つかり、ポワリエライト(ε-(Mg, Fe)2SiO4)と名付けられている(参照:「隕石から新鉱物「ポワリエライト」を発見」)。
リングウッダイトやポワリエライトは高圧環境下でなければ作られない上に、これらの鉱物が見つかった隕石は大きく変形しているなど、天体衝突との関係を物語る状況証拠はある。実際に衝撃圧縮で原子配列が変化することを実験で示し、その過程を記録できれば関係性が強固なものとなるはずだ。とはいえ、現実どおりに岩石同士を衝突させた場合、物質が壊れる一瞬の間に原子配列の変化を計測するのは難しい。
京都大学複合原子力科学研究所の奥地拓生さんたちの研究グループは、カンラン石の単結晶に集光した強いレーザーパルスを打ち込むことで衝撃圧縮状態を作り出す実験を行、その際の原子配列をX線自由電子レーザー施設「SACLA」を用いて計測した。
レーザーパルスによってカンラン石の結晶には60~100万気圧の強い圧力が発生する。超高速で進む変化をとらえるため、時間幅がフェムト秒(1000兆分の1秒)単位と極めて短いX線パルスを結晶に照射して、原子配列をほぼ止まって見える状態でとらえた。さらに全く同じカンラン石の単結晶をいくつも用意して、レーザーパルスとX線パルスを結晶に当てるタイミングを少しずつずらすことで、一連の変化をコマ送りの動画として記録することに成功した。
その結果、衝撃圧縮開始からわずか1億分の1秒で、原子の配列がカンラン石からリングウッダイトへ変化することが確認された。カンラン石中の酸素イオンと金属イオンの間には強く切れにくい化学結合があるため、その切断と再形成を伴う変化がこれほどの短時間で起こるのは従来の見解を覆す発見だったという。
今回の実験で再現された短時間の衝撃圧縮は、メートルサイズの小惑星など比較的小さな天体の衝突により高い頻度で起こる。つまり、多数の隕石や、「はやぶさ2」などが回収した小惑星のサンプルなどにその痕跡が残されている可能性は高い。
今回の実験で生成が確認された結晶はリングウッダイトだけだが、隕石からは他にもポワリエライトをはじめとした多種多様な高密度結晶が発見されている。これらについても、レーザーパルスとX線パルスを使って形成過程を分析することが期待される。ミクロなスケールの、文字どおり一瞬で終わる現象が、46億年の時をさかのぼって生まれたての太陽系を探る鍵となるのだ。
〈参照〉
- 神戸大学:天体衝突を記録する結晶の生成を超高速計測 ― レーザー衝撃圧縮実験による太陽系史の読解
- Nature Communications:Ultrafast olivine-ringwoodite transformation during shock compression 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/09/20 4億6600万年前、地球には環があったかもしれない
- 2024/05/27 宇宙生命探査の鍵となる「太陽系外の金星」を発見
- 2023/12/15 リュウグウの岩石試料が始原的な隕石より黒いわけ
- 2023/09/14 10例目、木星表面の閃光現象がとらえられる
- 2023/04/25 リュウグウ粒子に残る、穏やかな天体衝突の記録
- 2023/04/03 木星と土星の共鳴が鍵、地球型惑星と小惑星帯形成の統一シナリオ
- 2023/02/27 リュウグウの始原的物質は太陽系で最初期にできたものかも
- 2023/02/20 南極隕石が明らかにした月の火山活動の変化
- 2023/01/18 隕石の有機物が物語る過去の火星環境
- 2022/12/22 低密度の系外惑星、「煮えたぎる海洋惑星」か
- 2022/12/20 地球型惑星の大気は強い紫外線に負けない
- 2022/12/14 隕石のアミノ酸はガンマ線で作られた可能性
- 2022/11/04 火星で観測史上最大の天体衝突
- 2022/10/25 リュウグウ粒子からガス成分を検出
- 2022/10/06 海を持つ惑星は赤色矮星の周りに意外と多く存在する可能性
- 2022/09/28 火星探査機の最新成果:堆積岩から有機物、天体衝突による地震検出
- 2022/09/16 木星で今世紀最大の巨大閃光現象を観測
- 2022/04/21 衝突の記憶を刻む小惑星由来の隕石
- 2022/03/18 ドローンとAIで隕石を発見
- 2022/03/17 ケレスに衝突した隕石の大きさと数の謎