銀河団の向かい風で、星の光が消えた銀河
【2021年12月13日 すばる望遠鏡】
「超淡銀河(Ultra Diffuse Galaxy)」はその名のとおり非常に薄く広がった銀河で、大きさは天の川銀河と同じくらいでも星の数は100分の1以下であり、新たな星形成の兆候も見られない。銀河質量の大半を光で観測できない暗黒物質が占めていると考えられ、「超暗黒銀河」と呼ばれていたこともある。2015年にかみのけ座銀河団の中に854個もの超淡銀河が見つかったことで注目を浴びるようになったが、銀河団のメンバーの約8割は超淡銀河と矮小楕円銀河(通常の銀河より小さいが、星が密集している分だけ超淡銀河よりは明るい)が占めていると考えられている。つまり、目立たないが、ありふれた存在なのだ。
ありふれてはいるが、超淡銀河の起源と進化はよくわかっていない。ただ、星形成が起こらないということは、星の材料となるガスが不足しているはずだ。材料不足のまま生まれて現在に至った可能性もあるし、銀河の内部(超新星爆発などによる膨張)や外部(他の銀河との接近によるはぎ取り)の要因でガス欠になった可能性もある。
露・モスクワ大学のKirill Grishinさんたちの国際研究チームは、ガスで満たされた銀河団の中を移動する銀河が「向かい風」によって超淡銀河になるとする研究結果を発表した。Grishinさんたちはまず、かみのけ座銀河団とヘルクレス座の銀河団Abell 2147に含まれる銀河のなかから、平均年齢が15億年以下と比較的若い星で構成されているが現在は星形成が見られない、薄く広がった銀河を11個選び出した。このような銀河はやがて星の数が減り、超淡銀河に進化していくと考えられる。
これらをすばる望遠鏡の主焦点カメラ「シュプリーム・カム」と「ハイパー・シュプリーム・カム(HSC)」のアーカイブ画像で確認したところ、11個全てに尾のような構造が見られた。銀河団ガスの中で動くことによる向かい風で銀河のガスがはぎ取られたことを示す構造だ。
さらに、米・アリゾナ州の口径6.5mのMMT望遠鏡で各銀河を分光観測したところ、ほとんどの星が約10億年前から2億年前の間に形成されていたことがわかった。まさにこの期間に、これらの銀河は銀河団の中心領域へと移動していたのだと考えられる。向かい風は銀河ガスの多くを奪うと同時に、一部を圧縮して爆発的な星形成をうながす効果もあるからだ。
研究チームの統計的な推定によれば、かみのけ座銀河団にある超淡銀河の約半数が、銀河団ガスの向かい風によって作られたらしい。
〈参照〉
- すばる望遠鏡:銀河団の「向かい風」が作る超淡銀河
- Nature Astronomy:Transforming gas-rich low-mass disky galaxies into ultra-diffuse galaxies by ram pressure 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/02/15 数百万光年の規模でダークマターを初検出
- 2023/09/22 銀河団のメンバー銀河を用いた宇宙物質量の新測定法
- 2023/06/21 銀河団の衝突で解放される莫大なエネルギー
- 2023/02/02 銀河群の超淡銀河から長く伸びる恒星ストリーム
- 2023/01/13 「迷子星」の光から銀河団の歴史をさぐる
- 2023/01/12 巨大な「宇宙の網」が発するX線
- 2023/01/05 成長をやめた銀河、銀河団内に偏って分布
- 2021/11/02 100億年前の宇宙で成長中の銀河団
- 2021/05/12 風上に伸びるジェットが示す、銀河団の磁場構造
- 2020/11/19 銀河団の衝突で4億度に加熱された超高温ガス
- 2020/09/16 理論予測より桁違いに多かった銀河団内の重力レンズ
- 2020/09/07 年老いて冷えた銀河団の中心に存在する若いジェット
- 2020/04/15 宇宙論の大前提がゆらぐ?宇宙膨張が方向によって異なる可能性
- 2019/12/09 太陽の400億倍、最重量記録のブラックホール
- 2019/09/04 理論予測より少なかった、64億光年彼方の銀河団の冷えたガス
- 2019/07/16 初めてとらえられた銀河団衝突の瞬間
- 2019/03/05 新理論、ダークマターは軽くて散乱する
- 2018/12/05 銀河間に散在する無数の球状星団
- 2018/10/25 銀河団に落ち込む銀河の星形成が止まる理由
- 2018/10/24 初期宇宙の巨大な原始超銀河団「ハイペリオン」