巨大な「宇宙の網」が発するX線
【2023年1月12日 カブリIPMU】
銀河は集団化して銀河団を形成し、その銀河団同士もフィラメントと呼ばれる細長い構造でつながっている。フィラメントの間には銀河が存在しない領域が広がっていて、このような宇宙の大規模構造は「宇宙の網」とも呼ばれる。
宇宙に存在する物質やエネルギーの大部分は、直接観測できないダークマターとダークエネルギーで占められているとされ、通常の物質(バリオン)は4.9%しかない。そうしたバリオンの所在地を宇宙の網で探すと、銀河に含まれているのは1割だけで、残る9割は銀河団内部などを満たすガスであることがわかっている。ところが両者を含めても、宇宙に存在するはずのバリオンの半分から3分の1は見つかっていない。
カブリIPMUの谷村英樹さんたちの研究チームは、この「ミッシングバリオン(消えたバリオン)問題」に取り組んでいる。消えたバリオンの所在地として有力視されているのは、フィラメントに含まれる比較的高温でプラズマ化したガスだ。これまでの研究で、30年前のX線観測衛星ROSATによる全天サーベイデータを分析し、フィラメントの高温プラズマの熱放射によるX線を初めて検出したとする成果を2020年に発表していた。
今回研究チームは、露独のX線天文衛星Spektr-RGに搭載されたX線望遠鏡「eROSITA」の観測結果を分析した。分析に使われたのは、eROSITAによるX線サーベイで最初に発表された140平方度(全天の約300分の1)のデータで、463個のフィラメントからのX線が検出された。X線は高温プラズマからの熱放射であることが確認され、プラズマの密度や温度をとらえることにも成功している。
プラズマがフィラメントの中でどのように分布しているか、熱放射の起源がどこにあるかについては明らかになってない。今後公開されるeROSITAの観測データや次世代のX線観測装置がフィラメントのプラズマに迫り、消えたバリオンの全容解明につながる情報が得られると期待される。
〈参照〉
- カブリIPMU:X線で輝く宇宙フィラメント -eROSITA初期サーベイ-
- Astronomy & Astrophysics:X-ray emission from cosmic web filaments in SRG/eROSITA data 論文
〈関連リンク〉
- The Baryon Picture of the Cosmos
- Spectrum-Roentgen-Gamma:
- The eROSITA telescope
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