4月下旬に極大、長周期変光星はくちょう座χ
【2022年4月6日 高橋進さん】
はくちょう座χ(カイ)星は1686年にドイツの天文学者キルヒによって発見された星で、くじら座ミラ、ペルセウス座アルゴルに次いで3番目に発見された変光星です(新星、超新星を除く)。変光星総合カタログでは周期408日、変光範囲は3.3~14.2等とされていますが、この明るさはこれまでに記録された最大と最小の等級で、通常は5等から13等の間を変光することが多いです。このうち極大等級はその時々で変化が大きく、たとえば2013年5月の極大は3.7等の明るいものでしたが、続く2014年7月の極大は6.6等の暗い極大でした。
今期のはくちょう座χは3月中旬でおよそ6等級になり、2日に0.1等級くらいずつ明るくなってきています。このペースでいくと4月末くらいにおよそ5等級の極大を迎えるのではないかと思われます。先述のとおり極大等級はその時々でかなり異なるので、今回の極大がどれくらいの明るさになるか興味深いところです。
はくちょう座χの極大時には「白鳥の首が曲がって見える」と表現されることがあります。はくちょう座の首にはη(エータ)星という3.9等星がありますが、χがこれと同じくらいの明るさになると、首が曲がった白鳥のように見えるというわけです。今後χが順調に増光すれば、このような姿を見ることができるでしょう。今の時季、はくちょう座は日付が変わる前後に東の空に昇り、3時ごろには高さ40度ほどと見やすくなります。郊外でも双眼鏡を使えば簡単に見ることができます。この機会にぜひ、はくちょう座χの極大をお楽しみください。
変光のメカニズム
はくちょう座χはミラ型変光星と呼ばれる脈動変光星で、恒星が膨張したり収縮したりすることによって明るさが変化します。膨張した時が明るく収縮した時が暗くなるように思うかもしれませんが、実際にはその逆の光度変化を起こします。これは、脈動によって星の大きさが変わるだけでなく、表面温度も変わるためです。
ミラ型変光星の膨張時は収縮時と比べると直径がおよそ30%大きくなり、表面積はおよそ2倍になりますが、この影響による増光はせいぜい0.2~0.3等級ほどにすぎません。一方、脈動変光星は収縮すると表面温度が高くなり、膨張すると温度は低くなります。はくちょう座χの場合、収縮時は2700度、膨張時は2400度くらいで、これによって3等級近く光度が変化します。このように表面積の変化による増光より表面温度の変化による増光のほうが大きいため、脈動変光星では収縮した時のほうが明るくなるわけです。
はくちょう座χでは極大と極小の等級差はおよそ8等で、温度変化による光度変化幅の3等級よりさらに大きくなります。この原因は、温度変化による明るさの変化に加えて、酸化チタン分子による光度変化と考えられます。酸素とチタンは、恒星を取り巻く大気の温度が高温の時はばらばらの原子の状態で存在していますが、温度が下がってくると結合して酸化チタン分子となります。この酸化チタンは遮光効果が高い物質で、これが恒星の光を遮るために大きく減光するのだと思われます。
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