巨大磁気嵐が地球の周辺に酸素イオンを大量輸送していた

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日本でも低緯度オーロラが見られた2024年5月10日の巨大磁気嵐で、地球近傍の宇宙空間で酸素イオンが急増する未知の現象が起こっていたことが明らかになった。

【2026年6月26日 九州大学

地球の周辺には、地球大気の物質が地球磁場にとらえられた高密度の「プラズマ圏」がある。このプラズマは主に水素イオン(H+)からなるが、磁気嵐が起こると一部の領域で酸素イオン(O+)が増える。これまでの観測によると、O+イオンが増加するのは主に磁気嵐の回復段階で、プラズマ圏のうち比較的外側(地球半径の3~5倍)の「酸素トーラス」という部分でO+イオンが10~20%増えるとされてきた。

O+イオンはH+イオンより質量が16倍も大きいため、少し増えるだけで磁気圏内での電磁波動の伝わり方や高エネルギー粒子の生成・輸送に大きな影響を与える。そのため、宇宙空間でO+がいつ、どこでどのように増えるのかを理解することは、宇宙天気の研究にとって重要な課題だ。

太陽風とジオスペース
太陽風と地球磁場が相互作用する地球近傍の宇宙空間(ジオスペース)の概念図(提供:JAXA宇宙科学研究所

2024年5月10日に発生した巨大磁気嵐は約20年ぶりに発生したきわめて大規模な現象で、「母の日磁気嵐(Mother's Day Storm)」とも呼ばれている。このとき、日本を含む世界各地で低緯度オーロラが観測され、地球周辺の宇宙環境でも激しい変動が検出された。

九州大学国際宇宙惑星環境研究センター(i-SPES)の尾花由紀さんを中心とする研究チームは、ニュージーランドなどに設置された磁力計のネットワーク「CRUX」とジオスペース探査衛星「あらせ」の観測データを組み合わせて、この巨大磁気嵐が発生したときの内部磁気圏のプラズマ環境を詳細に調査した。

尾花さんたちはまず、地上磁力計ネットワークの観測データから、数十秒~数十分周期で振動する「ULF」という電磁波の固有振動をとらえ、内部磁気圏に存在するプラズマの密度を推定した。その結果、5月10日20~24時(世界時)ごろに、ニュージーランド上空の地球半径約2.2倍の領域でプラズマの質量密度が極端に増えていたことがわかった。これはプラズマ圏の中でも、これまで考えられてきたような酸素イオンの増加が起こる領域よりも地球に近い位置に当たる。

また、この時刻ごろに近くを飛翔していた「あらせ」の電子密度の観測データを組み合わせて解析したところ、この領域のプラズマの90%以上がO+だった可能性が示された。とくにニュージーランド付近で極端にO+が増えており、巨大磁気嵐が発生した際のプラズマの輸送や加熱の様子が経度によって異なるらしいこともわかった。

内部磁気圏プラズマ質量密度の増加
2024年5月10日の巨大磁気嵐で観測された、内部磁気圏のプラズマ質量密度の変化。最高で約35,000amu/cm3に達する極端な高密度状態が観測された(提供:九州大学リリース、以下同)

内部磁気圏プラズマの平均イオン質量
上の図の破線で囲んだ時間帯での、内部磁気圏プラズマの平均イオン質量の推定値。地球半径の約2.1~2.4倍付近の領域で平均イオン質量が約15amuに達し、プラズマの90%以上が酸素イオン(O+)で構成されていた可能性を示す

さらに、「あらせ」や米国の極軌道気象衛星群「DMSP」の観測データから、磁気嵐が最も激しい「主相」の時間帯であるにもかかわらず、プラズマ圏の外側境界付近で冷たいプラズマと比較的高エネルギーなプラズマが共存していたことや、電離圏が加熱されていたことも判明した。これらの結果から、比較的エネルギーの高いイオンが電子を加熱し、地球の電離圏からプラズマ圏にO+が効率的に供給される未知のしくみが存在する可能性が示唆された。

尾花さんたちは今回の成果を、巨大磁気嵐の際に地球の電離圏と磁気圏が結びつく過程や内部磁気圏の変動の仕方に新たな見方を与える重要なものだと考えている。こうした研究を通して、激しい宇宙天気現象に地球周辺の宇宙環境がどう応答するのかをより深く理解できれば、人工衛星が受ける障害を避けたり、放射線帯の変動や宇宙天気予報のモデルを進化させたりすることにもつながるかもしれない。

酸素イオン増加のメカニズム
2024年5月の巨大磁気嵐でプラズマ圏の酸素イオンが増えた推定メカニズム。磁気嵐によって高エネルギーのイオンが地球磁気圏に流入したことで、地球の電離圏の電子が加熱され、酸素イオンが大量に流出したと考えられる

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