60年前の扇形オーロラと巨大磁気嵐の関連

このエントリーをはてなブックマークに追加
1958年に日本各地で目撃されたオーロラのスケッチや連続写真などの分析から、扇形に広がったオーロラの実態や大規模な磁気嵐との関連性が明らかにされた。

【2019年5月23日 国立極地研究所

オーロラを描いたと思われる絵や図のなかには、大きく広がった扇形の描写が見られるものがある。1770年9月に京都から見えたオーロラを記録した絵図や、1872年3月に出現したオーロラを描いた絵画には、北の空に放射状にのびる白い光の筋が大きく広がった様子が表されている。

1770年9月のオーロラの絵図と1872年3月のオーロラの絵画
(左)1770年9月に京都から見えたオーロラを描いた絵図。松阪市所蔵の古典籍『星解』より(提供:三重県松阪市)、(右)フランスの天文学者・画家のエティエンヌ・レオポール・トルーヴェロが描いた1872年3月1日のオーロラの絵画。9時25分という時刻も記録されている

1770年9月のオーロラについては史上最大規模の磁気嵐に伴うものであることが研究で明らかになっており、こうした扇形オーロラは巨大磁気嵐の際に見られるものと考えることができるが、印象風景として実際よりも大げさに描かれた可能性も否定できない。また、実際に関連があるとしても、白い筋は通常のオーロラに見られる緑のものと同じ発光なのかどうかなど、他の謎も残されている。

巨大磁気嵐そのものが100年に1回程度しか起こらない珍しい現象であることから、扇形という形態に着目した研究はほとんど行われてこなかった。国立極地研究所の片岡龍峰さんたちは、巨大磁気嵐と扇形オーロラの関連を検証する手がかりを求めて、他の出現例や記録を探した。

片岡さんたちは、1958年2月11日に発生した記録的な巨大磁気嵐に着目した。この際には日本各地でオーロラが観測されたことから、扇形オーロラの記録も残されているのではないかと考えて調査を進めたところ、北海道にある気象庁地磁気観測所の女満別出張所で職員が描いた手書きスケッチの中に扇形オーロラが見つかった。

1958年2月のオーロラのスケッチ
1958年2月11日夜7時に北海道女満別で見られたオーロラのスケッチ(座標変換したもの)。北を中心として地平線から天頂まで表されている(提供:国立極地研究所リリースより)

当夜、女満別では日本で初めて、オーロラの分光観測と連続全天写真観測も行われており、片岡さんたちはその連続写真も分析を行った。さらに新潟県の気象庁相川測候所から見たオーロラの手描きスケッチも加えた研究から、オーロラの色や動き、位置、時間帯を解明した。

  • 色:分光データによれば、扇形オーロラの白い筋に当たる部分は主に酸素原子の緑色発光、扇面に当たる背景は酸素原子の赤色発光である
  • 動き:連続写真の分析によると、扇形オーロラは磁気嵐が最も激しくなる時間帯、かつ発光強度が最も明るくなるタイミングで10分間ほど出現し、全体の形状を大きく変えずに西へ移動していく
  • 位置:新潟と女満別のスケッチで描かれたオーロラの仰角の違いをもとに判断すると、扇形オーロラは磁気緯度が約38度の磁力線に沿って高度約400kmまで伸びている
  • 時間帯:1770年、1872年、1958年のいずれも、扇形オーロラは真夜中より前に発生するという共通点がある

これらの観測事実はすべて、近年の磁気圏物理学で整合的に理解することができ、宇宙空間において真夜中前の激しいプラズマの流れが作る不安定構造の発達が可視化された結果だと解釈できる。扇形オーロラは大規模な磁気嵐における基本的な特徴と考えられることが、古典籍や絵画、60年前のマイクロフィルムなどから解き明かされた。

今回の研究は、過去の限られたデータを探し出して見直すことで、まれにしか起こらない巨大磁気嵐中の磁気圏や電離圏で発生するプラズマ現象の安定性や複雑さを理解するための重要なヒントを得たという、興味深い成果である。また、古い記録を保存しておくことの意義も強く示すものでもある。巨大磁気嵐は電力網や通信など現代インフラへの障害を引き起こすものであり、今回の研究はこうした現象等の正確な予測に貢献することも期待される。

関連商品

2025年の見逃せない天文現象と星空の様子を紹介したDVD付きオールカラームック。DVDにはシミュレーションソフトやプラネタリウム番組を収録。

〈参照〉

〈関連リンク〉

関連記事