ガス雲を振り回す野良ブラックホール
【2019年2月19日 アルマ望遠鏡】
多くの銀河の中心には太陽の100万倍~100億倍にも及ぶ質量を持つ超大質量ブラックホールが存在し、私たちの住む天の川銀河の中心にも太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在することが知られている。また、大質量星が超新星爆発を起こしたあとに誕生する、太陽の数倍~10数倍程度の質量を持つ恒星質量ブラックホールも宇宙には多数存在している。
しかし、太陽の100倍から10万倍程度の質量を持つ「中間質量ブラックホール」については、これまでにいくつか報告例はあるものの、存在は裏付けられていない。中間質量ブラックホール同士が合体することで大きくなり超大質量ブラックホールになるとも考えられており、中間質量ブラックホールの研究は超大質量ブラックホールの起源解明や銀河進化を理解する鍵でもある。
国立天文台野辺山宇宙電波観測所の竹川俊也さんたちの研究チームは2016年に、天の川銀河の中心(いて座A*)から約20光年離れた位置に小型の特異分子雲「HCN-0.009-0.044」を発見した。この分子雲が銀河回転に逆行するような異質な挙動を示していたことから、研究チームでは、そこに暗い孤立した「野良ブラックホール」が潜んでおり、分子ガスとの重力相互作用の結果として特異分子雲が生じた可能性を2017年に指摘した(参照:「天の川銀河中心部で新たに2つの「野良ブラックホール」候補を発見」)。
今回、竹川さんたちが新たにアルマ望遠鏡を用いてこの分子雲を観測したところ、それまで不明瞭であったHCN-0.009-0.044の詳細な構造と内部運動が明らかになり、小さな1つの分子雲と考えられていたものが複数の構造であることが判明した。
この構造の運動状態を調べたところ、速度の変化パターンが軌道回転運動をしている天体に典型的なものであることがわかった。そのような回転運動を生み出す「見えない重力源」が存在していることを強く示唆するものである。
観測データの解析とモデル計算により、2つの構造は共通の重力源を中心とした異なる楕円軌道上を運動しており、その重力源の質量は太陽のおよそ3万倍であると求められた。軌道と重力源との最小距離は0.2光年程度と非常に小さいので、HCN-0.009-0.044の中に存在する重力源はコンパクトで大質量な天体、つまり中間質量ブラックホールであると考えるのが妥当だといえる。
いて座A*の近傍に発見された中間質量ブラックホールは、将来的に超大質量ブラックホールに飲み込まれて、その成長に寄与する可能性がある。超大質量ブラックホールや銀河の研究という点において、中間質量ブラックホールの発見は、それ自体が重要な意義がある成果だ。
さらに注目すべきは、発見されたブラックホールが「暗い」という点だ。理論予測によれば、天の川銀河内には大小含め少なくとも1億個以上のブラックホールがあるとされているが、そのほとんどは伴星からの物質供給が十分でないために暗く、降着円盤からの明るい放射を検出するという従来の方法では発見が困難だった。今回の観測研究は、運動するガス雲の検出が暗いブラックホールの探査に有効な手段であることを示すものである。
研究チームはこれまでにも、いて座A*から約200光年の位置に10万太陽質量を持つ中間質量ブラックホール候補天体を発見している(「天の川銀河内で2番目に大質量のブラックホールの兆候」)。本研究と同様に、異常な速度を持つ分子ガス雲に注目していくことで、今後続々とブラックホール候補天体が発見されることが期待される。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:ガス雲を振り回す野良ブラックホール -天の川銀河中心近傍に潜む中間質量ブラックホールのより確かな証拠
- The Astrophysical Journal Letters:Indication of Another Intermediate-mass Black Hole in the Galactic Center 論文
〈関連リンク〉
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