超大質量ブラックホールの重力を振り切る「超光速噴出流」

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活動銀河M87の中心に存在する超大質量ブラックホールから噴出するジェットの運動を、日韓合同VLBI観測網を用いて高い頻度で観測し、ジェットの速度が見かけ上光速を超える「超光速運動」をブラックホールから噴出後わずか5光年に満たないところで検出することに成功した。

【2016年3月16日 国立天文台国立天文台水沢

多くの銀河の中心部には太陽の数百万倍から数十億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在することがわかってきている。これらのブラックホールは活動性が極めて激しく、物質を吸い込むと同時に強力なジェット噴射もしている。超大質量ブラックホールの約1割が起こすジェットは、電離したガス(プラズマ)噴出流が細く絞られた形状で、光速に近い速度で数千~数万光年にもわたって宇宙空間を突き進む宇宙最大級の高エネルギー現象だ。

しかし、超大質量ブラックホールの強力な重力を振り切ってどのようにジェットが形成され、光速に迫る速度にまで加速されるのか、そのメカニズムは未だ解明されておらず、現代天文学における最難関の問題の一つとして半世紀近くにわたり論争が続いている。

国立天文台水沢VLBI観測所の秦和弘さんたちの国際研究チームは、おとめ座銀河団の中心部に位置する5440万光年彼方の巨大電波銀河「M87」に着目した。M87の中心には太陽の60億倍という宇宙最大クラスの質量を持つ超大質量ブラックホールが存在している。また、M87の中心核から約5000光年にわたりビーム状のジェットが光速の98%以上の速度で運動している様子が観測されている。

M87から噴出しているジェット
ハッブル宇宙望遠鏡が可視光線で撮影した、M87から噴出しているジェット(提供:NASA and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA))

このジェットの根元の噴出速度については、まだ正確に決定することができていない。先行研究では、ジェットの根元付近の運動は光速の10~30%程度以下と極めて遅いことが示唆されていたが、これらの観測頻度は3か月~半年毎という非常に粗いものだった。

日韓合同VLBI観測網(KaVA)
日韓合同VLBI観測網(KaVA)。(上図)KaVAの望遠鏡配置図。(下図)各局の電波望遠鏡写真。左からヨンセイ局(ソウル)、ウルサン局、タムナ局(済州)、水沢局、入来局、小笠原局、石垣局(提供:国立天文台、韓国天文宇宙科学研究院)

研究チームは「日韓合同VLBI観測網(KaVA)」を用いて、2013年12月から2014年6月にかけて、M87の超大質量ブラックホールのジェットの根元を約2~3週間に一度というかつてない高い頻度で計13回にわたり観測した。日韓合同VLBI観測網は、両国の計7台の電波望遠鏡を合成することによって高い解像度と感度を実現する巨大な望遠鏡を仮想的に形成するプロジェクトで、高品質な観測を実現でき高頻度なモニターが定常的にできるという長所がある。

M87ジェット根元の電波写真
日韓合同VLBI観測網(22GHz帯/波長13mm)で今回撮影されたM87ジェット根元の電波写真。ハッブル宇宙望遠鏡の100倍以上の解像度でブラックホールから噴出して間もないジェットの様子を鮮明にとらえている(提供:NASA and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA)/国立天文台)

観測の結果、ジェットの速度が見かけ上光速を超える「超光速運動」を、ブラックホールから噴出後わずか5光年に満たない地点において検出することに成功した。これは、従来考えられていたよりも10倍以上もブラックホールに近い位置でジェットがすでに極めて大きな速度(光速の約80%を超える)にまで加速されていることを示唆している。ブラックホールの強い重力を振り切りいかにしてジェットが噴出されるのか、という長年の謎を解明する、重要な手がかりになると期待される。

研究チームでは、2016年春にいっそう本格的な日韓合同VLBIによるM87の高頻度モニタープロジェクトを始動し、さらにブラックホールに近い領域を含めたジェット噴出流の時間変化の様子をかつてないほど克明に観測する予定だ。

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