星同士の衝突でまきちらされた放射性元素を発見
【2018年8月6日 アルマ望遠鏡/ヨーロッパ南天天文台】
地球からおよそ2000光年の距離にある「こぎつね座CK星」は、1670年に新星として記録された天体だ。出現直後は肉眼でも見えるほど明るく輝いたがすぐに減光し、300年以上経った今では20等級と非常に暗くなっている。1670年に起こった現象の正体は普通の新星爆発ではなく、2個の恒星が衝突合体したものだと考えられており、現在では赤外線や電波を放出する恒星状の天体と、それを取り巻くガスが観測されている。
米・ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのTomasz Kamińskiさんたちの国際研究チームが、アルマ望遠鏡と仏・ミリ波電波天文学研究所(IRAM)のミリ波干渉計「NOEMA」を使ってこの星を観測したところ、アルミニウムの放射性同位元素である「アルミニウム26(26Al)」とフッ素原子が結合したフッ化アルミニウムの同位体分子(26AlF)からの電波がとらえられた。放射性同位元素を含む分子が太陽系外で発見されたのは初めてのことだ。この同位体分子は、1670年の現象によって宇宙空間に放出されたものと考えられる。
分子にはそれぞれ固有の波長の電波を放射する性質があるため、これを分子の「指紋」として利用すれば、手の届かない宇宙に浮かぶ分子の種類を特定することができる。これまでに行われた膨大な実験から、数多くの分子が出す電波の波長データが揃っている。しかし、今回のターゲットとなった26AlFは放射性同位元素を含む分子であるため、この分子が出す電波の波長は知られていなかった。
宇宙に存在するアルミニウム原子の99.99%以上は、13個の陽子と14個の中性子からなる「アルミニウム27(27Al)」で、放射性崩壊を起こさない安定な原子核だ。一方、アルミニウム26(26Al)は27Alよりも中性子が1個少なく、約71万年の半減期で電子捕獲(※)と呼ばれる放射性崩壊を起こして、マグネシウムの安定同位体「マグネシウム26(26Mg)」に姿を変える。26Alは存在量がきわめて少ないため、26Alを含む分子から出る電波を地上の実験で観察することはできないのだ。
(※)当初「ベータ崩壊」と誤って記載していました。訂正しました。
そこで、研究チームでは通常の安定同位体27Alからなるフッ化アルミニウム27AlF分子の電波の波長を元に、理論計算を用いて26AlFの波長を正確に推定し、観測を行った。
こぎつね座CK星周辺のガスから放射性同位元素を含む分子が見つかったことで、星同士の衝突過程について新しい知見が得られた。重元素や放射性元素が生み出される恒星の奥深くの物質が衝突によってかき混ぜられ、表面まで汲み上げられて宇宙空間にばらまかれたと考えられるのだ。また解析の結果、衝突した2つの星のうちの一方は、太陽の0.8倍から2.5倍の質量をもつ赤色巨星だったと推定された。「私たちは、3世紀も前にバラバラになった星のかけらを見ているのです」(Kamińskiさん)。
観測結果によると、こぎつね座CK星の周りに存在する26Alの量は冥王星質量の4分の1ほどだと推定されている。一方、26Alが放射するガンマ線の観測から、天の川銀河全体では太陽3個分の質量に相当する26Alが存在すると考えられてきた。天の川銀河に含まれている26Alの起源はまだわかっていないが、こぎつね座CK星のような恒星同士の衝突現象はごくまれにしか起こらないため、天の川銀河にある26Alの全てが恒星衝突で放出されたものと考えるのは難しい。今回観測で検出されたフッ化アルミニウム分子の26Al以外に、原子として単独で存在している26Alがもっとたくさん存在している可能性や、恒星の衝突の仕方によってはもっとたくさんの26Alが放出される可能性も考えられる。「これで全てがわかったのではありません。恒星衝突が、もっと重要な意味を持っているかもしれないのです」(Kamińskiさん)。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:星の衝突でまきちらされた放射性元素を発見
- ヨーロッパ南天天文台:Stellar Corpse Reveals Origin of Radioactive Molecules
- Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics:Pair of Colliding Stars Spill Radioactive Molecules into Space
- Nature Astronomy:Astronomical detection of a radioactive molecule 26AlF in a remnant of an ancient explosion 論文
〈関連リンク〉
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