死にゆく大質量星が星のごく近くに作る衝撃波を発見

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一生を終えつつある大質量星からの定常的なガス放出に伴う衝撃波が、星のごく近くに形成されている様子が初めて観測された。

【2018年9月14日 東京大学大学院理学系研究科・理学部

太陽の8倍以上の質量を持つ大質量星は、強烈な明るさで周囲の分子や原子を壊したり、一生の終末期に多量のガスを周りの空間にばら撒いたり、超新星爆発を起こして重元素を生成したりして、星間物質の形態や性質に影響を及ぼし星間空間の化学組成を決定する。こうした影響は銀河全体の進化にも及ぶため、大質量星を知ることは宇宙を理解することにつながる。

こうした大質量星は晩年期に、「高光度青色変光星」と呼ばれる段階に移る。高光度青色変光星は大質量星の一生を解明する上で非常に重要な天体だが、大質量星の寿命(およそ1000万年)に対して高光度青色変光星として存在する期間がわずか1万年程と非常に短いため、その詳細はわかっていなかった。とくに、高光度青色変光星がどのようなガス放出を起こすのかについては、不明な点が多く残されていた。

東京大学(研究当時)の水本岬希さんたちの研究グループは、京都産業大学神山天文台の荒木1.3m望遠鏡と近赤外線高分散分光装置「WINERED」を用いて、太陽の80倍程度の質量を持つ高光度青色変光星「はくちょう座P星」の赤外線観測を行った。この星は5500光年彼方に位置しており、高光度青色変光星としては地球から最も近い天体である。

はくちょう座P星
はくちょう座P星周辺の赤外線画像。中心の星は明るすぎるため、その影響を除くためにマスクされている。着色された領域は1600年の大規模爆発に伴うガス放出の領域(提供:Adam Ginsburg (University of Colorado, Boulder))

はくちょう座P星は1600年に大規模な爆発を起こしており、その際に放出された大量のガスによって、半径約2兆kmの衝撃波が作られている。この衝撃波の存在は以前から知られていたが、今回の観測により、星の近くに半径7000万kmの別の衝撃波が存在していることが明らかになった。

星の近くの衝撃波についてさらに詳しく調べたところ、突発的なガス放出で作られた外側の衝撃波とは異なり、星からの定常的なガス放出によって作られたものであるということがわかった。このような衝撃波がはくちょう座P星に存在することは理論的には予測されていたが、観測的に存在が示されたのは初めてのことだ。また、この星から放射されている1階電離した鉄イオンの輝線のほとんどが、新しく発見された内側の衝撃波によって作られていることもわかった。

はくちょう座P星の周辺ガスの模式図
はくちょう座P星の周辺ガスの模式図。中心の星から放出されたガスが周りのガスにぶつかり、内側の衝撃波を作る。外側の球殻は1600年の爆発に伴う衝撃波(提供:東京大学リリースページより)

今回の研究により、高光度青色変光星からの定常的なガス放出によって作られる衝撃波の存在と、その大きさが観測的に初めて明らかになった。このサイズは理論モデルとよく一致しており、モデルの正しさも立証する結果となっている。定常的なガス放出に伴う質量損失率が正確に求められるようになったことで、大質量星がどれだけの速さで質量を失って死んでいくか、進化過程の理解が進むと期待される。