「はやぶさ2」第2回着陸候補地の調査を開始
【2019年5月13日 JAXA】
4月5日、「はやぶさ2」は小惑星リュウグウの表面に人工クレーターを作ることに成功した。運用チームでは、このクレーター生成実験で飛び散ったリュウグウ内部の物質を、次の「第2回タッチダウン」で採取することを目指している。現在リュウグウは徐々に太陽に近づいており、9月には近日点を通過するため、着陸が行えるのは表面温度があまり高くならない7月初旬までとされている。
上記の点を考慮して、今後の「はやぶさ2」の運用計画や第2回タッチダウンの着陸候補地点が5月9日に発表された。4月25日のクレーター探索運用で高度1.7kmから撮影されたクレーター周辺の画像にもとづき、比較的平坦な場所が次の着陸候補地点として11か所ピックアップされている。
11か所の候補地は、人工クレーターに最も近い「C01」、クレーター生成前の3月に着陸候補地点とされていた「S01」、今回新たに追加された「L14」の3エリアに分布している。運用チームでは、まず5月14〜16日に「S01」エリアに高度約10mまで降下して詳細な観測を行い、4個残っているターゲットマーカーの一つをこのエリアに投下することにしている。続いて、5月末と6月前半にも同様の降下運用を行って残り2エリアの観測を行い、最終的にどこに着陸するかを決定するという。
ただし、現在「はやぶさ2」の機体には、第1回の着陸で採取したサンプルがすでに格納されているため、第2回タッチダウン候補地がいずれも着陸しづらいとみられる場合には、サンプルを失うリスクを避けるために、あえて第2回目の着陸はせずに帰還するという選択肢も残されている。今後3回の降下運用の結果を見て、第2回着陸を行うかどうかを含めた詳しい検討が行われる見込みだ。
9日の記者説明会では、人工クレーターから約50m離れた場所にも、直径1mほどの「副クレーター」が円弧状に十数個並んで見つかったことが発表された。「はやぶさ2」プロジェクトサイエンティストの渡邊誠一郎さんによると、この副クレーターは衝突装置「SCI」から銅製の衝突体が打ち出される際に、銅板をSCI本体に固定していた部分が破片となって円錐状に飛び出し、リュウグウ表面に衝突してできたものと考えられるという。
さらに、人工クレーターの科学観測の結果についても報告された。「はやぶさ2」で生成された人工クレーターは直径10mを超えるほぼ円形のもので、掘削された深さは2〜3mとみられる。衝突体がぶつかった地点は事前に想定していた衝突予定範囲(半径約200m)の中心から25mほどしかずれていなかったという。
「はやぶさ2」のこれまでの観測で、リュウグウの表面に存在しているクレーターのサイズと個数の統計が得られており、このデータからリュウグウの表面は約1億6000万年前から900万年前までの間に形成されたと推定されている。今後、人工クレーターを詳しく分析することでリュウグウ表面の「強度」に関する情報が得られれば、この年代をさらに絞り込むことができるとのことだ。
(文:中野太郎)
関連記事
- 2024/11/27 リュウグウの砂つぶに水の変遷史を示す塩の結晶を発見
- 2024/09/25 「はやぶさ2」が次に訪れる小惑星に「トリフネ」と命名
- 2024/09/12 「にがり」成分からわかった、リュウグウ母天体の鉱物と水の歴史
- 2024/08/09 「はやぶさ2」が次に訪れる小惑星は細長いかも
- 2024/07/18 リュウグウ試料から生命の材料分子を80種以上発見
- 2024/05/09 リュウグウの試料中に、初期太陽系の磁場を記録できる新組織を発見
- 2024/01/29 リュウグウに彗星の塵が衝突した痕跡を発見
- 2023/12/25 タンパク質構成アミノ酸が一部の天体グループだけに豊富に存在する理由
- 2023/12/15 リュウグウの岩石試料が始原的な隕石より黒いわけ
- 2023/12/13 「はやぶさ2♯」の目標天体2001 CC21命名キャンペーン
- 2023/12/07 リュウグウ試料が示す、生命材料の輸送経路
- 2023/11/15 リュウグウ試料に水循環で生じたクロム同位体不均質が存在
- 2023/10/03 リュウグウの見え方が宇宙と実験室で違う理由
- 2023/09/21 リュウグウ試料から始原的な塩と有機硫黄分子群を発見
- 2023/08/29 「はやぶさ2」の旅路から得られた、惑星間塵の分布情報
- 2023/07/26 「はやぶさ2」が次に目指す小惑星、イトカワと類似
- 2023/07/19 リュウグウの炭酸塩に、母天体が独特な環境で進化した形跡
- 2023/04/25 リュウグウ粒子に残る、穏やかな天体衝突の記録
- 2023/04/13 「はやぶさ2♯」探査目標の小惑星による恒星食、1地点で減光を観測
- 2023/04/06 リュウグウでアミノ酸が生成された痕跡