「はやぶさ2」が小惑星トリフネへのフライバイに成功
【2026年7月7日 JAXA】
「はやぶさ2」は2020年12月に地球に帰還した後、拡張ミッション「はやぶさ2♯」として新たに2個の小惑星の探査を目指し、飛行を続けている。
7月5日、この拡張ミッションの最初の目標天体である小惑星「トリフネ((98943) Torifune)」へのフライバイが行われた。トリフネと「はやぶさ2」は地球から約9400万kmの距離にあった。
トリフネへの最接近時刻は7月5日18時30分00秒(誤差±1秒)とほぼ予定通りで、探査機はトリフネに対して相対速度約5.3km/秒で通過した。最接近距離はトリフネの中心から800mを予定していたが、実際の通過距離は現時点では不明で、今後の解析で求めるという。
このフライバイで、望遠の光学航法カメラ「ONC-T」でトリフネの姿を撮影することに成功した。拡張ミッションチームでチーム長を務める三桝裕也さん(JAXA宇宙科学研究所研究開発主幹)は、「この画像を見た瞬間、衝撃的だった。こんないい写真が撮れるのかと感動しかなかった」と述べている。

望遠光学航法カメラ「ONC-T」で撮影した、トリフネの最高解像度の画像。撮影時刻は最接近の約1秒前で、トリフネまでの距離は計画通りなら約5kmとなる(提供:JAXA、東京大学、千葉工業大学、東京科学大学、産業技術総合研究所、パリ天文台、カナリア天体物理研究所)

「ONC-T」で撮影したトリフネの連写画像を動画にしたもの(提供:JAXA、東京大学、千葉工業大学、東京科学大学、産業技術総合研究所、パリ天文台、カナリア天体物理研究所)
また、拡張ミッションチームの吉川真さん(JAXA宇宙科学研究所准教授)は、画像を見た印象として、トリフネの姿は明らかに2個の天体が合体した「接触連星 (contact binary)」であり、イトカワなどと比べると接触部分が埋まっていないことから、合体後、まだ比較的若い状態の可能性があると述べている。
今回のフライバイでは、中間赤外カメラ「TIR」での撮影や近赤外分光計「NIRS3」での分光観測、レーザー高度計「LIDAR」での距離測定など、科学観測にも成功した。特に、小惑星へのフライバイでLIDARでの測距に成功したのはおそらく世界初とのことだ。

中間赤外カメラ「TIR」で撮影したトリフネの連写画像を動画にしたもの。最接近時刻の約10秒前から0.25秒間隔で撮影された。色が白い部分ほど高温であることを示す。画像は左右反転している(提供:JAXA、前橋工科大学、千葉工業大学、会津大学、北海道教育大学、産業技術総合研究所)

レーザー高度計「LIDAR」で探査機からトリフネまでの距離を測定したデータ。1秒に1回の頻度で測距を行い、トリフネがLIDARの視野に入った2回(最接近の約4秒前・3秒前)、測距に成功した。画像クリックで表示拡大(提供:JAXA、北海道大学、大島商船高等専門学校、千葉工業大学、国立天文台、京都産業大学)
今回の成功は、小天体の地球衝突を防ぐ「プラネタリーディフェンス(地球防衛)」の観点からも大きな意味を持つ。今回、トリフネの至近距離を高い精度でフライバイできたことで、日本がNASAに続いて、数百mクラスの小惑星に探査機を衝突させて軌道を変更できる能力を持つことを証明したといえる。
現在、JAXAは欧州宇宙機関(ESA)と共同で、2029年に地球に接近する小惑星アポフィスを探査する「ラムセス(RAMSES)」ミッションを計画しており、今回の成功は、JAXAがラムセスミッションでも重要な役割を果たせる立場にあることを示している。
今後、「はやぶさ2」は7月9日に化学エンジンでの軌道制御を行った後、イオンエンジンの運転を再開して、2031年7月に最終目的地である小惑星「1998 KY26」に到着し、ランデブー観測を行う予定となっている。1998 KY26は直径わずか11mと推定されていて、活動が止まった彗星核(ダークコメット)か、あるいは1988年に打ち上げられ、約2か月後に通信途絶した旧ソ連の火星探査機「フォボス1号」の機体ではないかとも言われている。
ただし、「はやぶさ2」のイオンエンジンは設計寿命を大きく超えているために劣化が進んでおり、4機のエンジンのうちA, C, Dはほとんど使えない状態となっている。今後は残るBエンジンを延命させながら、まずは1998 KY26に向かうための最初の地球スイングバイ(2027年12月)に向けて飛行を続ける予定だ。
小惑星探査機「はやぶさ2」による小惑星「トリフネ」フライバイ後記者説明会(提供:JAXA)
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