「はやぶさ2」の旅路から得られた、惑星間塵の分布情報

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2020年12月に小惑星リュウグウのサンプルを地球に届けた探査機「はやぶさ2」が、次の小惑星へ向かう拡張ミッションの航行中に黄道光を観測し、惑星間塵の分布情報を得た。

【2023年8月29日 JAXA宇宙科学研究所

黄道光は日没後や日の出前に、地平線から上空へと黄道に沿って伸びる淡い光として見られる。その光は太陽系の惑星間を漂う塵が太陽光を散乱することで生じているものだ。惑星間塵は太陽系内に存在する最小の天体であり、その形成や移動の様子を研究することによって、惑星や小惑星の研究とは別の側面から太陽系のダイナミックな変化を知ることができる。

一方で黄道光には、遠くの天体からの光を調べる妨げになってしまうという問題もある。惑星間塵の分布を正確に把握して黄道光の影響を見積もることは遠方天体の観測研究においても重要だが、地球近傍からの観測には限界がある。

東京都市大学の津村耕司さんたちの研究チームは、小惑星探査機「はやぶさ2」が2020年12月に地球に帰還した後、別の小惑星へ向かう拡張ミッション「はやぶさ2♯」の航行中に光学航法望遠カメラ(ONC-T)で撮影した画像から、黄道光に関する新たな情報を取得することに成功した。ONC-Tの広視野が、天球上に大きく拡がった黄道光の観測に活かされたものだ。

「はやぶさ2」の想像図
観測を行う「はやぶさ2」の想像図(提供:木下真一郎)

観測データの分析により、地球公転軌道付近より内側の太陽系領域における、惑星間塵の個数密度と太陽からの距離の関係が明確に示された。この成果は約半世紀前に太陽探査機や惑星探査機によって得られたもの以来となる。

分析結果によれば、惑星間塵の濃度は、惑星間塵の太陽への落下のみを考慮した標準的な理論と比べて、太陽に近づくほど予測より濃くなっている。惑星間塵の太陽への落下について新たな物理が存在しているか、あるいは地球近傍における惑星間塵の生成といった未知の現象を示唆する結果である。地上観測では得られない、「はやぶさ2」だからこそ達成できた成果だ。

黄道光の明るさの日心距離依存性
「はやぶさ2」が観測した、黄道光の明るさと太陽からの距離の関係性(提供:東京都市大学、関西学院大学、九州工業大学)

日本の惑星探査機ではこれまで、今回の「はやぶさ2」だけでなく、火星探査機「のぞみ」や小型ソーラー電力セイル実証機「イカロス」、超小型深宇宙探査機「エクレウス」など、クルージング期間を積極的に利用した「クルージングサイエンス」が実施されてきている。今後も「はやぶさ2」では黄道光観測が継続される予定で、とくに2028年に予定されている地球スイングバイ以降には、地球公転軌道の外側でも黄道光観測の実現を目指している。

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