あと一歩!雲にさえぎられたファエトン

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8月22日明け方、小惑星ファエトンによる12等星の恒星食が北海道渡島半島で起こった。残念ながら雲に阻まれ現象の観測はできなったものの、協力体制の構築やノウハウの共有という点では大きな財産を得ることができた。

【2019年8月27日 星ナビ編集部

報告:早水勉さん(佐賀市星空学習館HAL星研

ふたご座流星群の母天体とみられている特異小惑星ファエトン((3200) Phaethon)は、JAXAの「DESTINY+」ミッションのターゲットであることは、本サイトのニュース「小惑星ファエトンによる恒星食を観測して、フライバイ計画DESTINY+を支援しよう」で紹介したとおりだ。ファエトンのような活動型小惑星の探査は、これまで世界で誰もなしえておらず、それだけに魅力的で、いくつもの困難を克服する価値がある。

その探査のための基本データを取得する目的で、ファエトンが星を隠す恒星食(掩蔽現象)を観測して小惑星の大きさを直接測定するというキャンペーンが計画された。ファエトンは小型の小惑星ということもあり、恒星食が起こるチャンスはめったにないのだが、7月29日にアメリカ西部で7等星の食が起こり、見事に観測に成功した(参照:「小惑星ファエトンによる恒星食、アメリカで歴史的な観測成功」)。

さらに8月22日の明け方には北日本方面で12等星の食が起こると予報されたことから、DESTINY+サイエンス検討チームが観測協力を呼びかけた。これに応じたプロの天文学者とアマチュアの掩蔽観測家ら31名が北海道渡島半島西部に集結し、16地点に陣取って現象の観測に挑むこととなった。

しかしこの挑戦は観測上の技術的な困難があっただけでなく、布陣計画から苦難の連続だった。

観測隊
小惑星ファエトン観測隊の集合写真。拠点となった、公立はこだて未来大学にて(提供:BUNDORE荒井憲子さん)

7月半ばの時点では、食が観測される掩蔽帯は青森県北部と予報されていた。しかし国際掩蔽観測者協会(IOTA)や米・ジェット推進研究所、米・サウスウエスト研究所(SwRI)の協力により、現象10日前に予報が改良され、掩蔽帯が津軽海峡を越えて函館付近となったことから、観測隊は遠征そのものの計画変更に迫られた。渡部潤一さん(国立天文台)の仲介を経て、公立はこだて未来大学での観測隊受け入れが決定したのは8月15日、現象の1週間前のことだった。

布陣マップ
最終的な布陣マップ。誤差を含む掩蔽帯幅22kmの範囲に15地点と青森県側に1地点。中央のラインから、予報中心線、掩蔽帯北限と南限(青)、予報誤差(緑:約68.3%の確率で現象が見られる範囲)、マージンを含む布陣範囲(ピンク)を表す(予報提供:スティーブ・プレストンさん(IOTA)、マーク・ブーイさん(SwRI)/布陣作成:小田桐茂良さん(元青森県立高校教諭)/地図画像の出典:Google, INEGI)

困難はさらに続く。天気予報は芳しくなく、現象日2日前の20日時点で、少しでも降水確率の低い渡島半島西海岸に主要な布陣を移すことに決定。翌21日(現象前日)に、半日をかけて現地調査を決行した。その甲斐もあって、そこでは時折晴れ間がのぞくこともあった。

観測風景1 観測風景2
(1枚目)観測中の吉田二美さん(千葉工業大学)の観測班。吉田氏(左から二人目)は今回の観測隊のまとめ役。(2枚目)函館中部高校地学部で観測準備中の洞口俊博さん(国立科学博物館)(中央)と見学中の地学部部員たち。左端は荒井朋子さん(DESTINY+サイエンス検討チーム責任者)。口径30cm反射望遠鏡を所有する同校には、渡部潤一さんから協力を依頼された。画像クリックで表示拡大(提供:BUNDORE荒井憲子さん)

しかし無情にも、天に願いは届かなかった。厚い雲は最後まで取れることはなく、その瞬間は雲の向こうで通り過ぎていってしまった。好奇心旺盛なファエトンが太陽神アポロンの日輪の馬車を操縦して地上の人々を大騒ぎさせたギリシア神話のように、小惑星のファエトンも地球上の観測隊を振り回したのだ。

観測結果という最大の目標には手が届かなかったものの、ここまでに至る協力体制の構築は、日本の掩蔽観測史上に残る。貴重なノウハウは将来の掩蔽観測に活かされることだろう。今回ファエトンの姿をとらえることは叶わなかったが、DESTINY+ミッションはまだまだこれからだ。2021年度に予定されている探査機の打ち上げに向けて、今後も挑戦は続く。

※小惑星ファエトンによる恒星食の掩蔽観測と、DESTINY+計画については、「星ナビ」11月号で詳しく解説する予定だ。