「老けた銀河」の探査で見つかった135億年前の星形成の痕跡

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すばる望遠鏡やアルマ望遠鏡による観測から、宇宙年齢が10億年程度の時代に存在する銀河が見つかった。銀河の星の大部分はその7億年前に誕生したとみられ、現在から135億年前の星形成の痕跡を示している。

【2019年9月12日 すばる望遠鏡アルマ望遠鏡

宇宙で最初の星や銀河がいつどのように誕生したのかは、天文学上の大きな研究テーマの一つだ。現在見つかっているなかで(距離が正確に求まったものとして)最も遠い銀河は2018年に日本のグループによって発表されたもので、132.8億年前の宇宙に存在している(参照:「132.8億光年彼方の銀河に酸素を検出、最遠記録を更新」)。

実際にこうした初代の銀河が誕生したのはさらに数億年前、宇宙誕生から1~5億年の間の時代だと考えられている。現在の技術では誕生したばかりの初代銀河を直接観測することはできていないが、何らかの方法で初代銀河の様子を探ることができるかもしれない。

そこで、東京大学宇宙線研究所の馬渡健さん、早稲田大学の井上昭雄さんたちの研究チームは、年老いた恒星からなる銀河、いわば「老けた銀河」に注目した。「老けた銀河」は一度に大量の星が作られ、その後は星が単に年老いていくだけという変化をたどった銀河だと考えられている。こうした銀河を調べれば、発見された時代よりも過去の様子を探ることができるかもしれないというアイディアだ。初期宇宙の研究ではこれまで活動の活発な「若い銀河」が注目を集めてきたが、「老けた銀河」も若い銀河にはない貴重な情報をもたらしてくれる。

馬渡さんたちは、ろくぶんぎ座の方向にある「COSMOS」と呼ばれる天域で「老けた銀河」を探すことを試みた。COSMOSはすばる望遠鏡を含む多数の天体望遠鏡や天文衛星でサーベイ観測が行われた領域であり、高感度・広視野・多波長の観測データが揃っている。

「老けた銀河」を見分けるため、研究チームはスペクトル中に現れる「バルマーブレーク」という特徴に注目し、COSMOS領域中に6つの天体を「老けた銀河」候補として選び出した。この6天体に対してアルマ望遠鏡で追加の観測を行ったところ、3天体が「老けた銀河」の最終候補として残った。「最高感度を誇るアルマ望遠鏡でも未検出ということが『老けた銀河』である可能性を劇的に高め、他の研究と一線を画す本研究のオリジナリティになっています」(早稲田大学 橋本拓也さん)。

「老けた銀河」の観測画像と測光スペクトルエネルギー分布
今回見つかった「老けた銀河」の一つの観測画像と、その測光スペクトルエネルギー分布。赤線は観測を最もよく再現するモデル銀河のスペクトル。緑線は、さらに宇宙年齢が進んだ時代にある星間塵の熱放射が多いというモデル銀河のスペクトルだが、アルマ望遠鏡の観測からこのモデルは棄却される(提供:Mawatari et al./NASA/国立天文台)

可視光線から電波まで計15波長の画像を用いた詳細なスペクトル解析の結果、これら3天体が宇宙年齢10億年程度の時代に存在し、その星の大部分は年齢7億歳であると結論付けられた。つまり3天体は、宇宙年齢わずか3億年の時代に誕生した「老けた銀河」である可能性が高いということになる。また、宇宙最初期の銀河の星形成活動が予想外に効率的であったことを示唆する解析結果も得られている。

老けた銀河とその先祖の想像図
老けた銀河(左)と、その銀河が星形成をしていたころ(右)の想像図(提供:国立天文台)

今回発見された3つの天体が本当に「老けた銀河」かどうかは、バルマーブレークの詳細な分光確認が必須だ。2021年にNASAが打ち上げを予定しているジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって確認がなされ、宇宙最初期にどうやって効率的に大量の星が作られたのかという物理過程も解明されることが期待される。