2019年 天文宇宙ゆく年くる年
【2019年12月27日 アストロアーツ】
※ 販売中の「星ナビ」1月号「星のゆく年くる年」では、2019年の天文宇宙トピックと2020年の注目現象を写真つきで詳しく紹介しています。
1~3月
新年1月2日、NASAの探査機「ニューホライズンズ」が太陽系外縁天体2014 MU69(通称:ウルティマ・トゥーレ)にフライバイし、パンケーキ型の天体が2つ合体した姿を撮影することに成功。2014 MU69は11月に「アロコス」と正式に命名された。
1月6日には、日本から見られる日食としては約3年ぶりとなる部分日食が全国で見られた。
2018年6月に小惑星リュウグウに到着した探査機「はやぶさ2」が2月22日、リュウグウ表面へのタッチダウンに成功し、着地と同時にリュウグウ表面の岩石片が大量に舞い上がる動画など、人類が初めて目にする画像・映像を数多くもたらした。サンプル採取のための弾丸が発射されたことも確認されており、リュウグウの物質を採取できたことが期待されている。「はやぶさ2」は4月にはリュウグウに人工クレーターを作る実験にも成功、7月には2回目のタッチダウンも成功させた。
4~6月
4月10日、世界6か所の電波望遠鏡を使った国際観測プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」によって、おとめ座の巨大楕円銀河M87の中心ブラックホールの『影』を史上初めて撮影することに成功したと発表された。
新元号「令和」に改元された3日後の5月4日、日本の民間企業インターステラテクノロジズ株式会社の観測ロケット「MOMO 3号機」が北海道大樹町で打ち上げられ、日本の民間ロケットとしては初めて高度100kmを越えて宇宙空間に到達した。
7~9月
7月2日にはチリ・アルゼンチンで皆既日食が見られた。日本からも観測ツアーが組まれて数多くの日食ファンが遠征し、「黒い太陽」の姿を楽しんだ(レポート:(1)/(2))。
2019年はアポロ11号の有人月面着陸から50周年。アポロ11号船長のニール・アームストロングを描いた『ファースト・マン』やNASAの未公開フィルムを再編集した『アポロ11』などの映画も公開された。
8月30日にクリミアのGennady Borisovさんが発見したボリソフ彗星が、離心率の大きい双曲線軌道を持つことがわかり、2017年に発見されたオウムアムアに次いで太陽系外から飛来した史上2例目の恒星間天体であることが判明した。
10~12月
10月、岐阜県飛騨市神岡町で建設が進められていた日本の大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」が完成した。同じく10月には東京大学木曽観測所の105cmシュミット望遠鏡用の新たな観測装置「トモエゴゼン」が運用を開始した。ともに天文学の新たな地平を切り拓く観測装置として期待される。
10月8日、2019年のノーベル物理学賞がアメリカのジェームズ・ピーブルズさんとスイスのミシェル・マイヨールさん、ディディエ・ケローさんに贈られることが発表された。ピーブルズさんは物理学的宇宙論を確立した功績が、マイヨールさんとケローさんは1995年に主系列星の周りを公転する太陽系外惑星を初めて発見した功績が評価された。
2019年は国際天文学連合(IAU)の創立100周年にあたる。これを記念して、112の惑星系に世界100以上の国と地域から提案された恒星名・惑星名が新たに命名された。日本からは、かんむり座の7等星「HD 145457」とその惑星「HD 145457 b」に、それぞれ「カムイ (Kamuy)」、「ちゅら (Chura)」という固有名が付けられた。
年の瀬も押し詰まった12月26日には国内で今年2回目となる部分日食が起こり、全国的に曇りや雨模様だったものの、かろうじて欠けた太陽を見ることができた地域もあった。また、アラビア半島からインド洋・西太平洋にかけては金環日食となり、グアム島では快晴の空の下で一年を締めくくる日食が楽しめた。
2019年の訃報
- 海部宣男さん(4月13日。75歳)
電波天文学者。国立天文台長、国際天文学連合会長を歴任。 - 藪保男さん(9月27日)
流星の観測的研究に貢献。日本流星研究会副会長を務めた。 - アレクセイ・レオーノフさん(10月11日。85歳)
旧ソ連の宇宙飛行士。1965年にヴォスホート2号で人類初の宇宙遊泳を行った。 - 長沢工さん(10月28日。87歳)
天文学者。流星天文学・天体力学・計算天文学などの分野で多数の著書を出版。国立天文台の広報普及業務にも携わった。
改めてその業績を偲び、哀悼の意を表します。
2020年は部分日食と火星準大接近、そして「はやぶさ2」が帰ってくる
2020年は何と言っても東京オリンピックが開催される記念すべき年。その開催1か月前の6月21日、全国で部分日食が見られる。台湾では金環日食となるので、台湾観光のついでに観測するのもおすすめだ。さらに12月14日(現地時間)には2019年に続いて再び、チリ・アルゼンチンで皆既日食が見られる。
10月6日には火星が2年2か月ぶりに地球に接近する。今回の接近は視直径が22秒を超える「準大接近」だ。前回2018年の接近では火星で大規模なダストストームが発生し、残念ながら表面の模様がよく見えなかった。今回の接近ではクリアな火星面を楽しめるように祈ろう。
宇宙探査での注目は小惑星探査機「はやぶさ2」の地球帰還だ。すでに小惑星リュウグウを離れて帰途についており、2020年11~12月に地球に到着する予定になっている。地球に着いた「はやぶさ2」はリュウグウの試料が入ったカプセルを分離し、このカプセルがオーストラリアに着地する。リュウグウへの2回のタッチダウンで表面の物質を採取できている可能性は非常に高く、どんなサンプルが入っているか楽しみだ。カプセル分離後の「はやぶさ2」は地球の大気圏には突入せず通り過ぎるが、他の天体に向かうことも検討されている。「はやぶさ2」の第二の旅路にも期待しよう。
2020年の毎日の星空の見どころは好評販売中のムック「アストロガイド 星空年鑑 2020」でチェックしよう。
アストロアーツの2019年
約5年ぶりにメジャーバージョンアップした天文ソフト「ステラナビゲータ11」では、新たに「ステラパネル」が搭載されて多彩な機能を簡単に呼び出せるようになった。天の川の描画も位置天文衛星「ガイア」の星表データに基づいた美しいグラフィックにアップデートされている。「マルチバンド星図」や「写真星図」など、観測や撮影プランの検討に役立つ新機能も加わった。
さらに、日食観測統合ソフト「エクリプスナビゲータ4」も発売された。「ステラナビゲータ」よりもさらに高精度の日食専用計算処理エンジンを搭載した正確な日食シミュレーション機能とともに、カメラ制御機能もアップデートされ、ニコン・キヤノンの最新フルサイズミラーレスカメラに対応し、外部コマンド呼び出しによる減光フィルターの付け外し制御もサポートした。
また、デジタルプラネタリウム「ステラドームプロ」が多くの施設に導入された。和歌山市立こども科学館ではコニカミノルタプラネタリウム「Cosmo Leap ∑」と、松本市教育文化センターでは五藤光学研究所「オルフェウス」との連動を果たし、これまでの大平技研「メガスター」シリーズだけでなく様々な光学式プラネタリウムと「ステラドームプロ」のハイブリッドシステムが誕生、より多彩な投影が楽しめるようになった。
来たる2020年も、天文・宇宙の楽しい話題がたくさん生まれることを祈ろう。
(文:中野太郎)
〈関連リンク〉
- アストロアーツ:
関連記事
- 2023/12/29 2023年 天文宇宙ゆく年くる年
- 2022/12/28 2022年 天文宇宙ゆく年くる年
- 2021/12/28 2021年 天文宇宙ゆく年くる年
- 2020/12/28 2020年 天文宇宙ゆく年くる年
- 2019/04/26 天文と宇宙で振り返る、平成の31年
- 2018/12/27 2018年 天文宇宙ゆく年くる年
- 2017/12/28 2017年 天文宇宙ゆく年くる年
- 2016/12/27 2016年 天文宇宙ゆく年くる年
- 2015/12/28 2015年 天文宇宙ゆく年くる年
- 2014/12/26 2014年 天文宇宙ゆく年くる年