2023年 天文宇宙ゆく年くる年
【2023年12月29日 アストロアーツ】
※ 現在販売中の「星ナビ」1月号「星のゆく年くる年」では、2023年に話題になった天文・宇宙のトピックと2024年の注目天文現象を写真つきで詳しく紹介しています。
1~3月
2023年はズィーティーエフ彗星(C/2022 E3)の話題から始まった。1月13日に近日点を通過し、1月末から2月初めにかけて5等級まで明るくなった。ダストの尾がコマの前方に伸びる「アンチテイル」も見られた。
1月末、木星の衛星が新たに12個発見され、計92個となった。2月にも3個が発見され、現時点で木星の衛星数は95個となっている。
2月、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の系外惑星観測衛星「ケオプス」と地上望遠鏡での観測データから、準惑星候補である太陽系外縁天体クワーオアーに環が見つかったと発表された。環を持つ太陽系小天体は3例目だ。
2020年に「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの試料分析は、初期分析6チームの結果が出揃い、国内外の研究者によってさらなる分析が行われている。2月には有機物の分析で約2万種類の有機分子や固体有機物が検出され、3月には核酸塩基のウラシルやビタミンも検出された。
2月、1902年に現在の埼玉県越谷市に落下して長年保管されていた隕石が「越谷隕石」として国際隕石学会に登録された。L4普通コンドライトに分類され、国内で確認された隕石としては54例目となる。
2月28日、JAXAの新たな宇宙飛行士候補として諏訪理さんと米田あゆさんの2人が選抜された。NASAが中心となって進めている有人月着陸プロジェクト「アルテミス計画」にも携わる「アルテミス世代」の日本人宇宙飛行士となる。
3月7日、日本の主力ロケット「H-IIA」の後継機となる新型液体ロケット「H3」の試験機1号機が打ち上げられた。これに先立つ2月17日に、メインエンジンの着火後に第1段のトラブルで打ち上げ中止となり、対策を行っての再チャレンジだったが、第1段分離後に第2段エンジンに着火せず、ロケットは指令破壊された。その後の調査で事故原因は第2段エンジン制御系での部品のショートと特定され、対策が行われた。2号機の打ち上げは2024年2月15日の予定だ。
4~6月
4月4日、NASAが「アルテミス2」で有人月往復を行う4名の宇宙飛行士を決定した。アルテミス2はアルテミス計画初の有人ミッションで、オリオン宇宙船で月の裏側を回って地球に帰還する。打ち上げは2024年11月の予定だ。4月20日には、そのアルテミス計画で月着陸船となるスペースXの「スターシップ」が、第1段ブースター「スーパーヘビー」との2段構成で初の飛行試験を行った。第1段の分離には至らず、打ち上げから約4分後に指令破壊されたものの、高度39kmに達した。
4月11日、JAXA宇宙科学研究所の赤外線天文衛星「あかり」が大気圏に再突入した。2006年に打ち上げられた日本初の赤外線天文衛星で、2011年まで観測を行った。
4月17日、ESAの木星氷衛星探査機「JUICE」が打ち上げられた。2031年に木星系に到着し、エウロパとカリストに複数回のフライバイ観測を行う。その後はガニメデの周回軌道に入って約6か月間の長期探査を行う予定だ。
4月20日、オーストラリアからインドネシアにかけて金環皆既日食が見られた。オーストラリア西部のエクスマウスなどで多くのファンが日食を楽しんだ。日本では南九州から房総半島までの日本列島南岸でごく浅い部分日食となった。
4月26日、日本の宇宙企業ispaceによる月探査ミッション「HAKUTO-R」の月着陸機が民間初となる月着陸に挑んだ。惜しくも降下の最終段階で通信が途絶し、月面に衝突したことが確認された。
4月、世界16台の電波望遠鏡からなるVLBI観測網「GMVA」でM87の超大質量ブラックホール周辺が観測され、降着円盤とジェットの同時撮影に成功したと発表された。イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)によるブラックホールシャドウ撮影(2019年発表)に続く快挙だ。
5月20日、板垣公一さんが「回転花火銀河」の通称で知られる渦巻銀河M101に超新星2023ixfを発見した。近距離の有名な銀河に出現した超新星として世界各地で観測され、5月24日には10.8等まで明るくなった。
5月、米国と台湾の研究者を中心とする2チームが米・ハワイのすばる望遠鏡とCFHTで、土星の衛星を新たに63個も発見した。これによって土星の衛星数は146個となり、太陽系の天体で初めて衛星数が100を超えた。
6月20日、ESAとJAXAの水星探査機「ベピコロンボ」が3回目の水星フライバイを行い、高度236kmまで接近した。ベピコロンボは水星フライバイをあと3回行って徐々に軌道を変え、2025年12月に水星周回軌道に入る。
7~9月
7月2日、ESAの宇宙望遠鏡「ユークリッド」が打ち上げられた。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などと同じく、太陽−地球系のラグランジュ点L2で観測を行い、宇宙の銀河分布などの精密なデータを得る計画だ。
この夏には各国の月探査機も相次いで打ち上げられた。7月14日、インドの月探査機「チャンドラヤーン3号」が打ち上げられ、8月23日には月の南極域への軟着陸に成功した。月着陸に成功したのはロシア(ソ連)・米国・中国に次ぐ4か国目となり、南極域への着陸は世界初だ。一方、ロシアも8月11日に「ルナ25号」を打ち上げて47年ぶりの月着陸を目指したが、月着陸軌道に移る段階で通信が途絶し、着陸には失敗した。
8月7日から11日まで、国際天文学連合(IAU)のアジア太平洋地域会議(APRIM)が福島県郡山市で開催された。日本での開催は21年ぶりだ。
8月13日、西村栄男さんが約10等級の新彗星(C/2023 P1)を発見し、「西村彗星」と命名された。西村さんの彗星発見は3個目となる。ピーク時には2等台まで明るくなり、数度の長さの尾を見せた。
8月26日、宇宙飛行士の古川聡さん他4名が搭乗する宇宙船「クルードラゴン」7号機が打ち上げられ、翌日にISSに到着した。古川さんは2度目となる約6か月間のISS長期滞在で各種のミッションを行う予定だ。
2022年7月から本格観測を開始したジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、今年も数々の画像や新たな科学成果をもたらしている。8月、JWSTが撮影したこと座のリング星雲(M57)の画像が公開された。内部のフィラメント構造やリングの外側にある淡い同心円状のガスなどをかつてない解像度でとらえている。
9月7日、JAXAのX線分光撮像衛星「XRISM」と小型月着陸実証機「SLIM」がH-IIAロケット47号機で打ち上げられた。両機とも予定の軌道に投入された。XRISMは「ひとみ」(ASTRO-H)の後継となる日本の7年ぶりのX線観測衛星だ。
9月21日、夜の現象としては18年ぶりのアンタレス食が見られた。全国的に天気が今ひとつで、現象を観測できた地域は少なかった。
9月25日、NASAの小惑星探査機「オシリス・レックス」が地球に帰還し、小惑星ベンヌのサンプルを納めたカプセルが米・ユタ州に無事に着地した。サンプルは200g以上入っているとみられる。10月にはサンプルの最初の分析結果が公表され、含水鉱物や炭酸塩などが検出されていることが発表された。
9月、EHTのメンバーを中心とする国際研究チームが東アジアVLBIネットワーク(EAVN)などを使った観測データから、M87のジェットが約11年周期で歳差運動をしている証拠を発見したと発表した。ブラックホールが自転していることを示す強い証拠となる結果だ。
10~12月
10月13日、NASAの小惑星探査機「サイキ」が打ち上げられた。目標天体は小惑星(16)プシケで、金属が多いM型小惑星を訪れる初めての探査機となる。到着は2029年の予定だ。
10月14日、アメリカ北西部・中米・ブラジルなどで金環日食が起こった。継続時間は約5分。
今年はドイツで近代的な機械式プラネタリウムが誕生してから100周年となり、各地で関連イベントが多数行われた。100周年の当日となる10月21日には、全国のプラネタリウム施設をオンラインで結ぶ一斉イベントが開催された。
10月下旬から11月にかけて、レモン彗星(C/2023 H2)が明るくなった。10月29日に近日点を通過して11月11日に地球に最接近し、6等台まで増光した。緑色の広がったコマが特徴的な彗星だった。
10月29日の明け方には食分0.128の部分月食が見られた。
11月1日、NASAの小惑星探査機「ルーシー」が小惑星(152830)ディンキネシュに接近した。ルーシーは小惑星帯と木星のトロヤ群小惑星を計8個探査するミッションで、このフライバイ観測ではディンキネシュの衛星も見つかった。
11月18日、スペースXの宇宙船「スターシップ」と「スーパーヘビー」ロケットの第2回飛行試験が行われた。第1段のスーパーヘビーを分離する段階まで成功し、高度約150kmに到達したが、打ち上げから約8分後に異常を検知して指令破壊された。
11月、米・ユタ州の宇宙線観測実験「テレスコープアレイ」で超高エネルギー宇宙線が観測されたことが発表された。観測されたのは2021年5月で、この実験で検出された過去最大のエネルギーを持つ宇宙線となる。「アマテラス粒子」と名付けられたが、発生源はわかっていない。
12月7日、西村栄男さんが超新星2003zvqを発見した。西村さんによる超新星の発見は初だ。また、12月9日には板垣公一さんが自身で今年6個目となる超新星2023zgxを発見している。
12月8日、JAXA宇宙科学研究所の惑星分光観測衛星「ひさき」が運用を終了した。ひさきは2013年に打ち上げられ、10年以上にわたって太陽系の様々な惑星の大気を観測してきた。
12月12日、小惑星レオーナがオリオン座の1等星ベテルギウスを隠す恒星食がヨーロッパや中央アジアで観測された。小惑星による1等星の食は非常に珍しい現象だ。
12月27日、JAXAの小型月着陸実証機「SLIM」が月周回軌道に投入された。月着陸は2024年1月20日に行われる。成功すれば日本初、世界5か国目となる。
2023年の訃報
- 藤井旭さん(2022年12月28日、81歳)
イラストレーター、天体写真家。白河天体観測所を共同で開設し、数多くの天文書籍を出版するなど、天文学界全体に大きな影響を与えた。 - ウォルター・カニンガムさん(2023年1月3日、90歳)
アメリカの宇宙飛行士。アポロ7号に搭乗。 - 松本零士さん(2月13日、85歳)
漫画家。『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』などのSF漫画で知られる。各地の科学館・プラネタリウムの名誉館長も務めた。 - ジャン=ジャック・ファヴィエさん(3月19日)
フランスの宇宙飛行士。STS-78でスペースシャトル「コロンビア」に搭乗。 - 松井孝典さん(3月22日、77歳)
惑星科学者。地球型惑星の水の起源を論じた研究で知られ、惑星科学の第一人者としてNHK「地球大紀行」への制作協力などでも知られる。 - フランク・シューさん(4月22日、79歳)
アメリカの天文学者。銀河の渦巻腕の形成モデルである「密度波理論」の提唱で知られる。 - サミュエル・デュランスさん(5月5日、79歳)
アメリカの宇宙飛行士。STS-35でスペースシャトル「コロンビア」、STS-67で同「エンデバー」に搭乗。 - アレクサンドル・ヴィクトレンコさん(8月10日、76歳) ソ連・ロシアの宇宙飛行士。1987~1994年にソユーズ宇宙船に4回搭乗し、宇宙ステーション「ミール」に滞在。
- カロル・ボブコさん(8月17日、85歳)
アメリカの宇宙飛行士。1983~1985年にスペースシャトルに3回搭乗。 - ケン・マッティングリーさん(10月31日、87歳)
アメリカの宇宙飛行士。アポロ16号、スペースシャトル「コロンビア」(STS-4)・「ディスカバリー」(STS-51-C) に搭乗。アポロ13号に搭乗予定だったが、打ち上げ3日前に風疹の疑いでスワイガート飛行士に交代した。 - ユベール・リーヴズさん(10月13日、91歳)
宇宙物理学者。カナダやフランスのテレビ番組などに多く出演し、科学普及活動で知られる。『世界でいちばん美しい物語』など、一般向け科学書の著作も多い。 - 海野和三郎さん(11月7日、98歳)
天文学者。恒星大気や輻射輸送の理論研究で活躍し、東京大学で後進の研究者を多く育てた。 - フランク・ボーマンさん(11月7日、95歳)
アメリカの宇宙飛行士、ジェミニ7号とアポロ8号で船長を務めた。 - アレクセイ・スタロビンスキーさん(12月21日、75歳)
ロシアの宇宙物理学者。初期宇宙のインフレーションモデルをアラン・グース、佐藤勝彦などとほぼ同時期に提唱した研究者の一人。 - 宮﨑淳一さん(12月4日、53歳)
望遠鏡ショップの誠報社、趣味人(シュミット)を経て三基光学館を立ち上げ、店長として天文ファンに親しまれた。
改めてその業績を偲び、哀悼の意を表します。
2024年は2つの彗星に大注目
2024年には2つの彗星が肉眼彗星になると期待されている。3月下旬から4月にかけては、12P/ポン・ブルックス彗星(周期約70年)が日没後の西の空で4等台まで明るくなりそうだ。8月から10月にかけては紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)が肉眼等級になり、ピーク時には0等級まで明るくなる可能性がある。
2024年は日本で見られる日食・月食は残念ながらないが、4月9日(日本時)にはメキシコ・アメリカ・カナダの一部で皆既日食、10月3日(日本時)にはチリ・アルゼンチン・南太平洋で金環日食が見られる。
12月には「食」のラッシュがある。8日の宵、日本の広い地域で土星食が見られる。14日にはプレアデス星団食、25日には北海道をのぞく全国でおとめ座の1等星スピカの食が起こる。スピカ食は8月10日にも東北南部以南で見られる。
2024年は惑星食も多く、12月8日の土星食以外に、5月5日には白昼の火星食、7月25日の朝にも土星食が起こる。
また、2024年の2~9月ごろにはかんむり座T星(約10等)が約80年ぶりに新星爆発を起こすと予測されている。爆発時には2等級まで増光する再帰新星だ。
宇宙開発・探査の分野では、1月20日にJAXAの月着陸機「SLIM」がいよいよ日本初の月着陸に挑む。
2月15日には日本の新型ロケット「H3」の試験機2号機が打ち上げられる。不具合による失敗を乗り越えて、ぜひとも成功してほしいものだ。
10月10日、NASAの「エウロパ・クリッパー」が打ち上げられる。2023年に打ち上げられたESAの「JUICE」よりやや早い2030年に木星系に到着し、エウロパに繰り返しフライバイする計画だ。
同じく10月にはESAの「ヘラ」も打ち上げられる。2022年にNASAの「DART」が人工物体の衝突実験を行った小惑星ディディモスとディモルフォスを訪れる。
11月には「アルテミス2」の打ち上げが予定されている。4名の宇宙飛行士がオリオン宇宙船で、10日間にわたる月往復飛行を行う。新たな宇宙服などの開発状況によっては2025年にずれこむかもしれない。
2024年にはNASAの「商用月ペイロードサービス(CLPS)」の打ち上げが始まる。打ち上げロケットと月着陸機の開発・運用を民間企業に委託するしくみだ。多くの民間企業が月着陸を目指して競っているが、CLPSでは2024年中に3社の着陸機が計6回打ち上げられる予定で、CLPSの着陸機の一つが民間初の月軟着陸となるかもしれない。
2024年の毎日の星空の見どころは好評販売中のムック「アストロガイド 星空年鑑 2024」でチェックしよう。
来たる2024年も、明るい気分で星空や宇宙を楽しめる一年になるよう祈りたい。
アストロアーツの2023年
- 天文シミュレーションソフト「ステラナビゲータ」の最新版「ステラナビゲータ12」を3月にリリース。また、12月には天体撮影ソフト「ステラショット」の最新版「ステラショット3」をリリースしました。
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