銀河の衝突で活性化も沈静化もする中心ブラックホール

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銀河同士の衝突は、中心部の超大質量ブラックホールにガスを流入させ、明るく輝かせるきっかけとなる。だがその活動を止めるきっかけもまた、銀河衝突かもしれない。

【2021年2月2日 東京大学

多くの銀河の中心には超大質量ブラックホールが存在し、そのうち一部は活動銀河核として明るく輝いている。活動銀河核が輝くのは、ダムで下へ流れる水が電力源になるのと同じように、ブラックホールへガスが落下する際にエネルギーが解放されることによるものだ。また、ダムに水が貯まるのと同じように、ブラックホールの周りには遠心力ですぐには落下できないガスがトーラス(ドーナツ状の構造)を形成している。

銀河が進化する過程では他の銀河との衝突がしばしば発生するので、これが超大質量ブラックホールにガスが流れ込む原因になると考えられてきた。一方、超大質量ブラックホールが明るく輝く期間は1億年程度であることがわかっており、活動が急に停止した痕跡を示す銀河も見つかっている。つまり、ブラックホールの活動には、開始するきっかけだけではなく停止するきっかけもあるはずだ。

東京大学の三木洋平さんたちの研究グループは、活性化した超大質量ブラックホールを休眠させる原因もまた銀河衝突であると考えた。衝突が銀河の中心部を直撃すれば、トーラスのガスを剥ぎ取る可能性があるからだ。

銀河衝突がブラックホール周辺のガスを持ち去る様子
銀河衝突がブラックホール周辺のガスを持ち去る様子の想像図(提供:Miki et al. 2021、以下同)

三木さんたちは、銀河衝突の痕跡が見つかっていて、中心ブラックホールの活動性が極めて低いという特徴を併せ持つアンドロメダ座大銀河(M31)に注目した。かつてM31の近くにあった衛星銀河がM31の中心部に衝突してトーラスのガスを奪ったと考え、その様子を東京大学情報基盤センターと筑波大学計算科学研究センターが共同運用するスーパーコンピューター「Oakforest-PACS」などを用いたシミュレーションで再現した。その結果、中心部へ向かった衛星銀河のガスの総量がトーラスのガスを上回る場合に、ほぼ全てのガスが剥ぎ取られることが示された。

銀河衝突が中心ブラックホール活動に与える影響
銀河衝突が中心ブラックホール活動に与える影響の概念図

さらに、M31以外の銀河についてもこのメカニズムが適用できるかを検証したところ、銀河衝突によって多くの銀河中心ブラックホール周辺のトーラスからガスを剥ぎ取ることが可能である、つまり銀河中心ブラックホールの活動を止められることも示された。衛星銀河の軌道計算からは、超大質量ブラックホールの活動を止めるような衝突は1億年に1回程度発生することもわかり、銀河中心核の活動が1億年程度で停止するという知見とも整合する。

銀河の衝突により中心ブラックホールが活性化するだけでなく沈静化することもあるという今回の研究成果は、銀河とブラックホールの共進化過程の理解を深めたり、急激に中心ブラックホールの活動性を停止した兆候を示す新種の天体群の解明につながったりすると期待される。

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