131億年前の銀河に吹く超大質量ブラックホールの嵐

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アルマ望遠鏡による観測から、131億年前の宇宙において強烈な銀河風が吹き荒れている様子が明らかになった。銀河と中心ブラックホールが当時から共進化していたことを示唆する結果だ。

【2021年6月15日 アルマ望遠鏡すばる望遠鏡

宇宙に存在するほとんどの大型銀河の中心には、太陽の数百万倍から数百億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールが隠れている。ブラックホールの質量と銀河中央部(バルジ)の質量はほぼ比例していることから、銀河とブラックホールは何らかの物理的相互作用をしながら共に成長・進化(共進化)したと考えられている。

共進化において重要な役割を果たすのが「銀河風」だ。超大質量ブラックホールは物質を大量に飲み込んで成長するが、このときに引き寄せられた物質はブラックホールの周りを回転する円盤を形成し、円盤内の摩擦で強力なエネルギーが生み出されて、周囲の物質を逆に押し出すことになる。この影響が外側へ伝搬すると、やがて銀河全体に吹き荒れて影響を及ぼす銀河風に発達すると考えられている。

では、銀河風による銀河と超大質量ブラックホールの共進化はいつ始まったのだろうか。国立天文台の泉拓磨さんたちの研究チームは、131億年前、つまり宇宙誕生からわずか7億年後に銀河風を伴う銀河があったことを明らかにした。これまで最古とされていた銀河風は約130億年前だったので、これを更新するものとなる。

泉さんたちはすばる望遠鏡を用いた観測から、これまでに130億年以上昔の宇宙で超大質量ブラックホールを持つ銀河を100個以上発見している。今回の研究では、発見した銀河の一つ、おとめ座の方向にある「HSC J124353.93+010038.5(略称:J1243+0100)」をアルマ望遠鏡で観測して、銀河に含まれる塵と炭素イオンが放つ電波をとらえた。

銀河J1243+0100
アルマ望遠鏡による銀河J1243+0100の擬似カラー画像。黄色は銀河に含まれる静かな動きを持つガスの広がり、青は高速で動く銀河風の広がりを表す。銀河風は銀河の中心部分に分布しており、ここに潜む超大質量ブラックホールが駆動源であることを示している(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)、Izumi et al.)

炭素イオンが放つ電波からガスの動きを分析したところ、銀河の回転運動に加えて、毎秒500kmもの速度で移動する高速ガス流が存在することがわかった。このガス流は星の材料となる物質を押しのけ、銀河における星形成活動を止めてしまうほどのエネルギーを持っており、まさに銀河風と呼ぶにふさわしいものである。

研究チームはさらにJ1243+0100の中で動きが遅いガスの成分も調べ、銀河バルジの質量は太陽の約300億倍であると見積もった。別の方法で見積もられた同銀河の超大質量ブラックホールの質量はその1%ほどで、この比率は現在の宇宙における銀河のものとほぼ一致している。宇宙誕生後10億年に満たない時代から、超大質量ブラックホールと銀河の共進化が起こっていたことを示唆する結果だ。

「今後このような天体を大量に観測し、本天体で見えてきた『始原的共進化』が130億年前の宇宙の普遍的な描像かどうかを明らかにしたいと考えています」(泉さん)。

銀河風が吹き荒れる銀河の想像図
銀河風が吹き荒れる銀河の想像図。中心の超大質量ブラックホールから放出される莫大なエネルギーによって星の材料である星間物質が吹き飛ばされている(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))

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