すばる望遠鏡でとらえた恒星間天体アトラス彗星の変化

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すばる望遠鏡による恒星間天体「アトラス彗星」の分光観測から、彗星コマ中の水に対する二酸化炭素の割合が太陽への接近に伴って変化した可能性が示された。

【2026年4月23日 すばる望遠鏡

2025年7月に発見された「アトラス彗星(3I/ATLAS)」は、これまでに確認された中でわずか3例目の恒星間天体だ。恒星間天体は太陽系外の恒星の周囲で誕生し、宇宙空間を旅して偶然太陽系へやってきたものであり、他の星系で作られた物質を直接調べることができるため、「宇宙からのサンプル」として高い注目を集めている。

アトラス彗星
2025年12月13日(ハワイ時間)にすばる望遠鏡が撮影したアトラス彗星(提供:国立天文台

京都産業大学・神山宇宙科学研究所の新中善晴さんたちの研究チームは今年1月7日、米・ハワイのすばる望遠鏡を用いてアトラス彗星を分光観測し、ガスの成分を調べた。2025年10月に太陽に最接近(約2億km)したアトラス彗星は、観測時には太陽から約4億3000万kmの距離にあった。

研究チームが目指したのは、彗星の活動を左右する主成分である二酸化炭素(CO2 )と水(H2O)の存在比を明らかにすることだ。この比率は彗星がどのような環境で形成され、進化したかを探る重要な手がかりとなる。

しかし、二酸化炭素からの光は地球大気の影響を強く受けるため、地上からの直接測定は容易ではない。そこで新中さんたちは、太陽の紫外線によって二酸化炭素や水が分解されて生じる酸素原子が放つ、特定の光(禁制線)に注目した。彗星のコマでは水由来の酸素原子は主に赤色の光を放ち、二酸化炭素由来の酸素原子は緑色と赤色の光を同程度の強さで放つ。この緑と赤の光の強さを比べることで、間接的に存在比を推定できる。

彗星コマ中での酸素原子の発光メカニズム
彗星コマ中での酸素原子の発光メカニズム。オーロラ発光と同じ仕組みで緑や赤の光を放つ(提供:京都産業大学)

可視光高分散分光器HDSを用いた観測で得られたスペクトルから、酸素原子が放つ緑色と赤色の光の強度比を測定し、二酸化炭素と水の存在比を推定したところ、その値はおよそ0.3から2.1と見積もられた。

一方、太陽接近前の2025年8月にジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が行った観測から示された比率の値は7.6で、二酸化炭素が非常に多い状態であったことが報告されている。約半年後のすばる望遠鏡の観測で低い値が示されたことは、太陽接近の前後で放出ガスの組成が変化した可能性を示唆している。彗星の表面と内部で揮発性成分の分布が異なり、ガスが放出される場所が太陽の熱によって彗星表面からより深い層へ移行したと考えられることと整合的な結果だ。

彗星コマ中の二酸化炭素と水の比率
宇宙望遠鏡「JWST」、「SPHEREx」と、すばる望遠鏡が取得したアトラス彗星のコマ中の二酸化炭素と水の比率。望遠鏡の視野や観測された空間スケールなどが値のばらつきの一因という可能性もある(提供:Shinnaka et al. 2026

「太陽系の彗星研究で培った手法を恒星間天体に適用することで、太陽系の内と外の天体を同じ観点から比較できるようになりました。今後、サーベイ望遠鏡の本格稼働によって、より多くの恒星間天体が発見される中、すばる望遠鏡の高分散分光観測は恒星間天体の性質解明に重要な役割を果たすでしょう。これらの研究を通じて、太陽系を含む様々な星系で惑星がどのように形成されたのかを解明していきたいと考えています」(新中さん)。