恒星間天体のアトラス彗星は極端にアンモニアが欠乏

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恒星間天体「3I/アトラス彗星」は、太陽系の彗星に見られるアンモニア分子が極端に欠乏していることが、神山天文台の観測で明らかになった。アトラス彗星の故郷が太陽系と異なる環境である可能性が示唆される。

【2026年3月10日 京都産業大学

太陽系に存在する小惑星や彗星といった小天体は、太陽系が誕生した約46億年前から現在まで残っている「生きた化石」のような天体だ。こうした天体を詳しく調べることで、太陽系の起源を探ることができる。

一方、太陽系の外にも惑星や小天体を伴った恒星が数多く存在し、それらの恒星の周りを公転していた彗星が故郷から放り出されて、「恒星間天体」としてたまたま太陽系へやってくることがある。これまでに確認されている恒星間天体は、2017年に発見された「オウムアムア(1I/'Oumuamua)」、2019年に発見された「ボリソフ彗星(2I/Borisov)」」、2025年7月に発見された「アトラス彗星(3I/ATLAS)」の3つだ。

アトラス彗星
ハッブル宇宙望遠鏡がとらえたアトラス彗星(2025年11月30日撮影)(提供:NASA, ESA, STScI, D. Jewitt (UCLA). Image Processing: J. DePasquale (STScI)

京都産業大学の河北秀世さんたちの研究チームは、京都産業大学神山天文台の口径1.3m荒木望遠鏡を用いて、2025年11月下旬から12月上旬にかけてアトラス彗星を観測した。その結果、可視光線の波長域では、太陽系に通常見られる彗星とよく似たスペクトルであるシアンラジカル(CN)や三炭素(C3)、二原子炭素(C2)といった分子の発光と、酸素原子による発光(酸素原子の禁制線:[O I])が見られた。

これは、アトラス彗星に含まれる氷成分が、太陽系の彗星と大きくは違わないということを示唆している。CN分子はもともと彗星核の氷中にあったシアン化水素(HCN)分子がガスとして放出され太陽紫外線で壊されて生じたものと考えられ、酸素原子も同様にH2O分子が紫外線で壊れてできたと考えられている。

アトラス彗星の可視光線スペクトル
アトラス彗星の可視光線スペクトル(実線)。観測日ごとに異なる色で表示。点線は夜空のスペクトル(提供:京都産業大学リリース)

さらに詳しくスペクトルを調べたところ、アトラス彗星では、太陽系の彗星では一般的に見られるNH2分子が極端に欠乏しているということがわかった。NH2分子は彗星氷に含まれていたアンモニア(NH3)が太陽紫外線で壊されてできると考えられるので、アトラス彗星に含まれる氷にはアンモニアが欠乏していることが示唆される。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などによる観測で、アトラス彗星では他の分子について太陽系の彗星と異なるガス成分の兆候が報告されている。今回の神山天文台による観測結果も、アトラス彗星の故郷の環境が太陽系とは異なっていた可能性をうかがわせるものだ。

「アトラス彗星にアンモニアが欠乏しているという特徴がわかったときにはワクワクしました。恒星間天体は天文学でも新種に属します。今後、同種の天体が続々見つかり、それらにどんな特徴があるかがわかってくることで、逆に太陽系がどのくらいユニークなのかが明らかになるかもしれません」(国立天文台 渡部潤一さん)。