アンモニア含有鉱物が示す小惑星の大移動
【2022年1月31日 東京工業大学】
小惑星は太陽系初期に惑星が形成されて以来の残存物であり、太陽系形成当時の情報が記録されている天体として研究対象となっている。小惑星のうちC型に属するものは、水や有機物を含む隕石(炭素質コンドライト隕石)に近い組成を持ち、地球の大気や海、生命の材料物質の起源と考えられている。C型小惑星がどこでどのように誕生したのかは注目を集める研究テーマだ。
東京工業大学地球生命研究所の黒川宏之さんたちの研究チームは、日本の赤外線天文衛星「あかり」が過去に取得したデータから、C型小惑星19天体と、C型小惑星より始原的と考えられるD型小惑星2天体のデータを抜粋し、詳細に解析した。すると、約半数の小惑星の表面に、アンモニアを含む層状珪酸塩鉱物の存在が確認された。
次に、小惑星を構成する水と岩石の割合や温度・圧力といった条件を様々に変えて化学反応のシミュレーションを行い、こうした鉱物がどのような環境で形成されるのかを調べた。その結果、発見された鉱物が生じるのは、小惑星の誕生時にアンモニアの氷とドライアイスが含まれていた場合のみだった。また、成長して水が豊富な外層と岩石を主成分とする内核に分化した小惑星についてシミュレーションを実施したところ、外層部分においてのみアンモニアを含む層状珪酸塩鉱物が形成されることもわかった。
アンモニアの氷とドライアイスは、現在の太陽系では土星軌道以遠に相当する-190℃以下の極寒でのみ安定な物質だ。シミュレーションの結果は、C型小惑星が誕生してから現在の小惑星帯(火星軌道と木星軌道の間で、太陽からの距離は土星軌道の半分以下)まで大移動をしてきたことを示唆している。また、隕石は天体衝突で破壊された小惑星の破片が地球に飛来したものだが、氷に富んだ外層の物質は地球に到達することなく四散してしまうため、アンモニアを含む層状珪酸塩鉱物は隕石から発見されないのだろうと研究チームは結論づけている
2020年12月に小惑星探査機「はやぶさ2」が地球近傍のC型小惑星リュウグウの試料を地球に持ち帰った。また、小惑星探査機「オシリス・レックス」も、同じく水や有機物を豊富に含んでいると思われる小惑星ベンヌの試料を2023年に持ち帰る予定だ。これらの小惑星の試料からアンモニアを含む塩や鉱物が発見されれば、今回の研究の結論を裏付けられるものとなるだろう。
〈参照〉
- 東京工業大学:生命の材料をもたらした小惑星の9億kmにも及ぶ長旅-アンモニア含有鉱物を手がかりに太陽系形成史を解読
- AGU Advances:Distant Formation and Differentiation of Outer Main Belt Asteroids and Carbonaceous Chondrite Parent Bodies 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/11/27 リュウグウの砂つぶに水の変遷史を示す塩の結晶を発見
- 2024/11/14 「COIAS」発見小惑星に「アオ」命名、15日に「命名祝賀会」配信
- 2024/10/08 二重小惑星探査機「ヘラ」、打ち上げ成功
- 2024/09/12 「にがり」成分からわかった、リュウグウ母天体の鉱物と水の歴史
- 2024/08/09 「はやぶさ2」が次に訪れる小惑星は細長いかも
- 2024/03/19 『恋する小惑星』を追体験!Webアプリ「COIAS」
- 2024/01/29 リュウグウに彗星の塵が衝突した痕跡を発見
- 2024/01/11 「プラネタリウムの父」バウアスフェルドの名を冠した小惑星観測キャンペーン
- 2023/12/25 タンパク質構成アミノ酸が一部の天体グループだけに豊富に存在する理由
- 2023/12/15 リュウグウの岩石試料が始原的な隕石より黒いわけ
- 2023/12/15 2023年12月22日 ベスタがオリオン座で衝
- 2023/12/13 「はやぶさ2♯」の目標天体2001 CC21命名キャンペーン
- 2023/12/12 小惑星レオーナによるベテルギウスの食、世界各地で観測
- 2023/12/07 リュウグウ試料が示す、生命材料の輸送経路
- 2023/11/28 彗星コマ中のアンモニア分子の起源
- 2023/11/15 リュウグウ試料に水循環で生じたクロム同位体不均質が存在
- 2023/11/07 探査機「ルーシー」が最初の目標小惑星に接近、衛星を発見
- 2023/10/16 金属小惑星を目指す探査機「サイキ」打ち上げ成功
- 2023/09/25 探査機「オシリス・レックス」地球帰還、小惑星ベンヌの試料入りカプセルを届ける
- 2023/08/23 2023年8月30日 フローラがみずがめ座で衝