初期宇宙の「赤い光点」の正体?「ブラックホール星」を発見か

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初期宇宙で見つかった赤い点光源の分光観測から、この天体は巨大ブラックホールが太陽系サイズの濃い水素ガスに包まれた「ブラックホール星」だとする研究が発表された。

【2026年8月19日 マサチューセッツ工科大学

NASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)によって、赤方偏移がz=10を超える、宇宙年齢がわずか数億歳の時代の天体が近年続々と発見されている。これらの中には非常に明るいものも少なくないが、これらが本当にz=10より遠い宇宙にあるとすると、何か未知のエネルギー源を考えなければ莫大な明るさを説明できないという謎がある。一方で、これらの天体の正確な距離(赤方偏移)が分光観測で確認された例はまだ多くない。

そこで、米・ハワイ大学のRohan Naiduさんを中心とする研究チームは、これまでにJWSTの近赤外線カメラ「NIRCam」や中間赤外線カメラ「MIRI」で発見されてきた超遠方天体候補を、JWSTの分光装置「NIRSpec」で追観測して正確な距離を求めるという「Mirage or Miracle?(MoM)」サーベイを行ってきた。現時点で観測史上最遠記録を持つ天体「MoM-z14」(赤方偏移z=14.44)も、MoMサーベイで距離が確定したものだ。

このMoMサーベイでNaiduさんたちが特に高い優先度で観測した天体の一つが、「MoM-BH*-1」と名付けられた天体だ。この天体は、ディープサーベイ観測の定番領域の一つである、くじら座の「Ultra Deep Survey(UDS)」領域にあり、JWSTでも2023年に撮影されて、UDS領域の天体の中で最も赤い点光源であることが知られていた。

MoM-BH*-1
JWSTで撮影されたMoM-BH*-1(提供:Courtesy of the researchers)

「宇宙で非常に赤い天体を見つけたら、たいていはその天体がすすや灰のような塵に包まれていると考えます。最近カナダで発生した山火事の煙でボストンの空が明るい赤色に見えたのと同じ原理で、天体も塵のベールを通して見ると、実際の色よりも赤く見えるのです」(米・マサチューセッツ工科大学 Robert Simcoeさん)。

だがMoM-BH*-1には、塵によるものとは考えられない特徴もあった。波長4μm付近の色フィルターで撮影した画像では非常に明るいのに、3μmより短い波長の色フィルターで撮った画像には全く写らないのだ。これは、天体のスペクトルが3μm付近より短い(=青い)側で急に暗くなっていることを示唆している。

この特徴は「バルマーブレイク」と呼ばれ、こと座のベガのような、太陽よりやや高温の恒星でよくみられる。星の大気に含まれる1万度くらいの濃い水素ガスが、星の中心から出る光を強く吸収するために生じる現象だ。

NaiduさんたちがNIRSpecでMoM-BH*-1の精密なスペクトルを得たところ、3μm付近で明確なバルバーブレイクが確認された。さらに、MoM-BH*-1のスペクトルには水素とヘリウム以外の重元素の線がほぼ全く見られないこともわかった。

また、このスペクトルから、MoM-BH*-1の赤方偏移はz=7.7569(距離約131.2億光年)であることも判明した。

MoM-BH*-1の画像とスペクトル
(a)JWSTのNIRCamで撮影されたMoM-BH*-1。「FxxxW」が色フィルターの名前で、「xxx」の数字が透過する波長域をおおよそ示す(例:「F277W」は中心波長が約2.77μmの広帯域フィルター)。(b)NIRSpecで得られたMoM-BH*-1のスペクトル。「H∞」が水素のバルマーブレイクの位置で、これより短波長側の光が大きく減光している。画像クリックで表示拡大(提供:Naidu et al.(2026)、一部改変)

「この天体で観測されたバルマーブレイクは過去のどんな天体よりも減光量が大きいため、この天体が『普通』の恒星だという可能性は否定されます。この結果から、途方もない大きさを持つ新種の『恒星大気』が見えているのだとしたらどうだろう、と私たちは気づきました」(Naiduさん)。

Naiduさんたちは、この天体の特徴を再現できるような構造を様々に仮定してシミュレーションを行った。その結果、何らかの強力なエネルギー源がきわめて高密度の「繭」のような水素ガスに包まれていると考えれば、非常に深いバルマーブレイクを持ち、水素とヘリウム以外の元素を含まないという特徴を説明できることを突き止めた。

ただし、MoM-BH*-1は普通の恒星より数千億倍も明るいので、天体の中心にあるエネルギー源は恒星の中心核のような核融合反応ではありえず、ブラックホールだと考えるしかない。

そこでNaiduさんたちは、濃い水素の外層を持つ「星」の中心に、活発に物質を降着しているブラックホールがあるという「ブラックホール星」モデルを考え、ブラックホールの質量などのパラメータを変えて、MoM-BH*-1の特徴を説明できるかどうかを調べた。

このシミュレーションの結果、中心ブラックホールがおよそ10万太陽質量で、水素ガスの外層が太陽系の直径くらい(数十~100au)の大きさを持つブラックホール星が、MoM-BH*-1の特徴に最も良く合うという結論が得られた。これらの結果から、Naiduさんたちは「最初のブラックホール星」の意味を込めて「BH*-1(= black hole star 1)」という符号を付けている。

恒星・ブラックホール・ブラックホール星
恒星(左)・ブラックホール(中)・ブラックホール星(右)の模式図。恒星は高密度のガスの球体で、中心の核融合で生じた熱と光が外に放射される。ブラックホールは周囲の物質を引き寄せて降着円盤を作り、この円盤ガスが摩擦で明るく輝く。ブラックホール星では、物質を降着しているブラックホールが濃いガスに囲まれていて、ブラックホールがエネルギー源、ガスの外層が恒星の光球に対応する構造になっている。ただしそのサイズは太陽系並みかそれ以上に大きい(提供:iStock; Jose-Luis Olivares, MIT)

これまでにJWSTで撮影された初期宇宙の画像には、MoM-BH*-1ほど明るくはないものの、これと似た赤い点光源がたくさん写っていて、「Little Red Dot(LRD)」と呼ばれている。LRDの正体についても現在盛んに研究が進められているが、Naiduさんたちはブラックホール星モデルでLRDも説明できるかもしれない、と考えている。

「どのLRDも、普通の初期銀河の中にあるブラックホール星だと考えて矛盾はありません。しかしMoM-BH*-1が特別なのは、母銀河よりもけた外れに明るく、ほぼブラックホール星からの光だけが見えているという点です」(Naiduさん)。