天の川銀河の中心部に、すすに覆われた変光星を発見

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数百億個の星が集まる天の川銀河のバルジに、炭素を主成分とする固体微粒子に覆われた変光星4個が世界で初めて発見された。

【2017年6月26日 東京大学大学院理学系研究科・理学部

天の川銀河の中心部は、「バルジ」と呼ばれる膨らんだ構造をしている。バルジには数百億個の星が密集しているが、そのほとんどは誕生から100億年程度が経過した古い星ばかりであると考えられてきた。天の川銀河で星が作られ始めてからそれほど時間が経たないうちに非常に多くの星が作られ、その後は星の誕生がストップしてしまったというシナリオが受け入れられているためだ。

しかし最近の研究では、数はそれほど多くないものの、誕生から数億年から数十億年の比較的若い星も存在する可能性が指摘されるようになってきた。また、星の年齢だけでなく化学組成についても、これまで考えられていたよりも複雑であることがわかってきた。天の川銀河のバルジにいろいろな性質を持つ星の集団が存在するのであれば、その形成の仕組みを明らかにすることで銀河の進化についてのヒントが得られると期待できる。

東京大学大学院理学系研究科の松永典之さんたちの研究チームはバルジの形成に迫るため、バルジの中にある星の中でも特に「ミラ型変光星」というタイプの天体に注目した観測・研究を行った。ミラ型変光星は100日以上の長い周期で変光を繰り返し、その周期光度関係(周期が長いほど明るい)から正確な距離を推定することができる。他のタイプの星よりも様々な情報が得られることから、天の川銀河の構造や進化を調べるうえで有効な天体だ。

松永さんたちは、天の川銀河のバルジの方向に発見されていた6500個以上のミラ型変光星の中から、赤外線での星の色に基づく新たな方法を利用して炭素を多く含む可能性のある星を選び出した。そして、南アフリカ天文台のIRSF望遠鏡などを用いて、4つのミラ型変光星が炭素の固体微粒子(すす)に覆われており、バルジの距離にあることを確認した。バルジの中に炭素の多いミラ型変光星を見つけたのは世界初のことであり、バルジの星の多様性を示す証拠となる。

ミラ型変光星
炭素の固体微粒子(すす)に覆われたミラ型変光星(提供:東京大学)

本来、太陽をはじめとする大部分の星は炭素よりも酸素を多く含んでおり、そのままの状態で進化すると酸素を多く含むミラ型変光星となる。これに対し、今回見つかったような炭素の方が多いミラ型変光星が生じるには、主に以下の2つのプロセスが考えられる。

一つは、星の中で核融合によって作り出された炭素が表面まで持ち上げられるというもので、その場合、数十億年前に生まれた星が進化したものと考えられる。そのような星があれば、バルジの主要な成分である100億歳程度の古い星とは年齢の異なる星が存在することになる。

もう一つは、連星系において一方の星が速く進化して多くの炭素を表面に持ち上げ、その星のガスを他方の星の表面へ降り積もらせるというものだ。この場合、炭素を表面に受け取るほうの星は年齢100億年ほどの古い星でもかまわないことになり、バルジに非常に多く存在する古い星の中で、偶然このような珍しい進化を起こしたものが今回見つかったのかもしれない。

今回発見された炭素を多く含む4つのミラ型変光星がどちらの形成プロセスを経たものなのかはわかっていない。しかし、従来は存在しないと考えられていた炭素の多いミラ型変光星を発見したことは重要だ。今後、同種の変光星がさらに発見されれば、その性質や形成過程が明らかになり、天の川銀河のバルジに存在する多様な星の形成と進化の解明が進むと期待される。