VLTで地球に最も近い系外惑星の分光観測に成功

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【2012年7月3日 ESO

オランダの研究者らが、これまで大気を観測することができなかった系外惑星の光を直接分光して大気組成を調べることに成功した。


うしかい座τ星の位置

うしかい座τ星の位置(緑色の印の箇所)をステラナビゲータで表示。円は平均的な双眼鏡の視野(7度)。クリックで広域図を表示

うしかい座τ星とうしかい座τ星bの想像図

うしかい座τ星とうしかい座τ星bの想像図。クリックで拡大(提供:David A. Aguilar)

視線方向の主星の動き

惑星の重力による主星の動きは、地球からの視線方向の成分しか検出できない。クリックで拡大

うしかい座τ(タウ)星bは初めて発見された系外惑星のひとつであり、また現在に至るまで地球に最も近い系外惑星のひとつでもある。4.5等の主星は空が暗いところなら肉眼でも見えるが(画像1枚目)、その周りの惑星の存在は、主星に及ぼす重力的効果を通してしか確認することができない。この惑星はホットジュピター、つまり主星に非常に近い軌道を回る巨大ガス惑星だ。

系外惑星の大気を研究するためには、主星の前を通過することが必要である。惑星が主星の前を通るとき、惑星の大気を通りぬけてきた恒星の光に大気の組成情報が刻まれるからだ。だが、うしかい座τ星bは地球から見て主星の前を横切ることはないため、この惑星の大気を研究することはできなかった。

しかし、この惑星からわずかに放射される光の研究に15年間挑戦してきた結果、その大気構造調査と惑星の質量推定に初めて成功した。研究チームは、チリ・パラナル天文台の超大型望遠鏡VLTに搭載されたCRIRESという装置を使った高性能赤外線観測に、主星の信号よりはるかに弱い惑星の信号を検出する新しい技術を組み合わせた。

「VLTとCRIRESの高性能観測のおかげで、我々はこの惑星系のスペクトルを、今までのどの観測よりも詳しく調べることができました。見えている光のたった0.01%が惑星から来たもので、他は全部主星の光です。本当に難しい観測だったのです」(オランダ・ライデン天文台のMatteo Brogi氏)。

系外惑星のほとんどは、この天体同様、惑星がその重力で主星に与えるわずかなふらつきを検出すること(ドップラー・シフト法)で見つかっている。この場合観測から得られる情報は限られており、惑星の質量下限しか求めることができなかった。なぜなら、主星がふらつく動きのうち検出できるのは、地球から見て視線方向の動き(遠ざかる、または近づく動き)のみである。惑星がたとえ本当はもっと重く、主星はもっと大きく振り回されているとしても、公転面が地球から見て傾いていれば、それだけ視線方向の動きとしては検出できないことになる(画像3枚目)。

だが今回試験的に使われた新しい技術により惑星からの光を直接見ることができれば、惑星の公転面の角度が求められ、さらに惑星の正確な質量を求めることもできる。主星を回る惑星の運動を追跡した結果、うしかい座τ星bは44度傾いた軌道を回り、木星の6倍の質量を持っていることが確認できた。

「VLTの新しい観測で、うしかい座τ星bの質量という15年前からの問題が解決できました。また今回使われた新しい技術で、これからは主星の手前を通過しない系外惑星の大気も研究できるようになりました。さらに、惑星の質量も以前よりずっと正確に求めることもできます。これは今後のための大きな一歩となるでしょう」(オランダ・ライデン天文台のIgnas Snellen氏)。

うしかい座τ星bの大気の光をとらえて質量も求めた研究チームは、惑星大気の一酸化炭素の存在量を求め、さらに、観測結果と理論モデルを比較することで高度による温度変化も求めた。今回の成果で特に注目すべきところは、高度が高くなるほど大気の温度が下がるということだ。これは、他のホットジュピターで見られる温度逆転、高度が高くなるほど温度が上がるという傾向とは全く逆の結果だ。

将来、他の元素も検出できるようになれば、系外惑星の大気環境についての理解も深まるだろう。さらに、惑星の公転運動を追跡しながら観測することで、系外惑星の朝と夜の大気変化も見ることができるかもしれない。

「この成果は現在と未来の地上望遠鏡が持つ大きな可能性を見せてくれるものです。もしかすると、いつかこの方法で地球型惑星で生命活動の証拠を見つけることができるかもしれません」(Snellen氏)。


ステラナビゲータで系外惑星の位置を表示

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