渦巻銀河の腕と中心ブラックホールの質量に強い関連性
【2017年7月27日 RAS】
銀河の中心には太陽の数百万倍から数十億倍もの質量をもつ超大質量ブラックホールが存在すると考えられている。従来、ブラックホールの存在の推定や質量の見積もりは、その周囲を回る星やガスの運動から得られてきた。
豪・スインバーン大学のBenjamin DavisさんとAlister Grahamさんたちは、この銀河中心ブラックホールの質量と、渦巻銀河の渦状腕の開き具合(あるいは、巻き具合)との関係を調べる研究を行った。
天文学者エドウィン・ハッブルが考案した、銀河を形状で分類する「ハッブル分類」では、渦巻銀河はSa型(腕が最もきつく巻き付いたもの)からSd型(腕が大きく開いたもの)に分けられる。そして、腕が開いた渦巻銀河ではバルジという銀河中心の膨らんだ領域が小さく、反対にバルジが大きいと腕が巻き付いているという特徴がある。
約10年前、銀河の腕の巻き具合と銀河中心ブラックホールの質量との間に関係があることが見つかった。Davisさんたちがその研究を発展させ、44個の銀河サンプルを慎重に分析したところ、これらの間に予想以上に強い相関が見られ、開いた腕を持つSc型やSd型の渦巻銀河では銀河中心ブラックホールの質量が小さいことを示す結果が見いだされた。「従来の質量推測方法に匹敵するほどの相関が見られます。銀河の画像を見るだけで、誰でもすぐに銀河中心ブラックホールの質量を見積もることができるのです」(Davisさん)。
渦巻き模様が見られるのは銀河の円盤部であることを考えれば、今回の結果は今までよくわかっていなかった銀河の円盤部とブラックホールの関係に光を当てるものでもある。さらに、バルジを持たない円盤銀河の中心ブラックホールの質量の予測も可能となった。「ブラックホールと円盤は共進化するはずだということを示唆しています」(Davisさん)。
「渦巻銀河の中心ブラックホールの質量を明かすのは、今や『abcを言う』くらい簡単になりました。また、腕の巻き具合とブラックホール質量の関係は、いまだにほとんど見つかっていない中間質量ブラックホール(太陽質量の100倍から10万倍)探しにも役立つだろうという点も重要です」(Grahamさん)。
〈参照〉
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