天の川銀河の中心を取り囲む低温ガスのリング

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アルマ望遠鏡による観測から、天の川銀河の中心に位置する超大質量ブラックホールを取り囲む「低温のガスのリング」という、これまでに知られていなかった構造が発見された。

【2019年6月12日 アメリカ国立電波天文台

天の川銀河の中心は太陽系から約2万6000光年の距離にあり、そこには太陽質量の400万倍もの超大質量ブラックホール「いて座A*」が存在している。いて座A*の周辺の領域には、その周りを運動する恒星や星間塵の雲のほか、大量のガスもあり、ガスはブラックホールへと落ち込む降着円盤を形成していると考えられている。

これまでのX線観測により、降着円盤のうち、いて座A*から約0.1光年ほどの範囲に摂氏1000万度にも達する希薄な高温ガスが存在することが知られていた。

また、いて座A*から数光年程度の距離では、相対的に低温である摂氏1万度ほどの水素ガスが、電波の一種であるミリ波の観測によって大量に検出されている。いて座A*は比較的穏やかなブラックホールだが、水素を電離させるにはじゅうぶんなほど強く放射しており、これによって電離した水素が電子と再結合する際に発生するミリ波が観測できるのだ。だが、こうした低温ガスがブラックホールに流れ込む様子はこれまで知られていなかった。

米・プリンストン高等研究所のElena Murchikovaさんたちの研究チームはアルマ望遠鏡を用いて、いて座A*から0.01光年ほど(太陽から地球までの距離の約1000倍)離れた場所からのミリ波を観測した。そして、この場所にも低温ガスが存在することやガスがリング状構造をしていることを初めて明らかにした。

低温ガスのリング状構造
低温ガスのリング状構造を表したイラスト(提供:NRAO/AUI/NSF; S. Dagnello)

リングに含まれる水素ガスの総量は太陽質量の1万分の1と見積もられている。さらに、このリングがいて座A*の周りを回っていることもはっきりと示された。

ブラックホールの周囲を流れる円盤状の低温水素ガスの画像
低温ガスの動きを色で示したもの。赤は遠ざかるガス、青は近づくガス。これらの動きから、リングがいて座A*(白い十字で示した位置)の周りを回っていることがわかる(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), E.M. Murchikova; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)

この情報は、ブラックホールへと物質がどのように落ち込むのかや、ブラックホールとその周辺領域との複雑な相互作用に関する新たな見識となる。「隠れたリングが初めてとらえられました。私たちに最も近い超大質量ブラックホールという重要な天体でありながら、物質の降着がどのように起こっているのかについては、まだよくわかっていません。今後のアルマ望遠鏡による観測から、ブラックホールの謎の解明がさらに進むことを願っています」(Murchikovaさん)。

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