天の川銀河最大級の星のゆりかごで見つかった多数の分子雲コア

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はくちょう座の方向に広がる巨大分子雲複合体で、星のたまごとなる分子雲コアが174個検出された。これらの分子雲コアは今後、大質量星や星団に進化すると予想される。

【2019年11月26日 国立天文台野辺山宇宙電波観測所

天の川銀河に存在する星々は、主に水素分子ガスから構成される「分子雲コア」と呼ばれる塊が、自身の重力の影響で集まり収縮することによって形成される。そのうち、太陽質量の8倍を越えるような大質量星の形成では、多数の中小質量星を含む星団を同時に形成することがわかっている。このように大質量星を含む星団は非常に多数の星を効率よく形成するので、銀河における主要な星の供給源であると考えられる。

太陽系の近傍にある中小質量星形成領域の電波や可視光線による観測からは多数の分子雲コアが発見されており、その大きさや質量は星々が生まれたときの個数分布とよく似ていることが指摘されている。一方で、前述のように星々の重要な供給源と考えられる星団形成領域における分子雲コアは、中小質量星形成領域と比べて遠いために観測が難しく、物理的性質はあまりわかっていなかった。

東京大学の竹腰達哉さんたちの研究グループでは、長野県の野辺山宇宙電波観測所にある野辺山45m電波望遠鏡とその主力観測装置であるFOREST受信機を用いて、はくちょう座の方向約5000光年の距離に位置する「はくちょう座X巨大分子雲複合体」をターゲットとした大規模な観測を実施した。この領域は太陽系から最も近傍にある大規模な星団形成の現場であり、天の川銀河最大級の星形成活動を伴う領域の一つとして知られている。過去の観測で、太陽の数百万倍もの質量をもつ大量の分子ガスの存在が明らかになっており、電波望遠鏡による分子雲コアの検出に最適な領域である。

星団を構成している大質量星の母体となる分子雲コアを調べる方法の一つが、波長2.7mmの電波を放射する一酸化炭素の微量な同位体分子であるC18Oの観測だ。FORESTのおかげで、満月40個分以上という広大なはくちょう座X領域に対してC18Oの高感度観測が実現し、分子雲コアの検出が可能となった。

はくちょう座の観測領域を含む星景画像と、はくちょう座X領域の電波画像
(左)野辺山宇宙電波観測所で撮影された星景写真(撮影:依田貴臣さん)。(右)野辺山45m電波望遠鏡で得られた、はくちょう座X領域の電波画像(擬似カラー)。(上段)赤が12CO、緑が13CO、青がC18O分子輝線の強度、(下左)活発な星形成領域、(下右)比較的穏やかな星形成領域。青の楕円が今回同定された分子雲コアの位置を示す(提供:リリースページより、以下同)

データを解析したところ、1つの星団形成領域における分子雲コアのサンプルとしては最大級となる、174個もの分子雲コアが同定された。また、ほとんどの分子雲コアが自己重力によって強く束縛されていることもわかった。検出された分子雲コアの多くが大質量星や星団に進化することを示す結果である。

さらに、検出された分子雲コアの質量関数(質量ごとの個数分布)が、小質量星も含む天の川銀河内の星で得られている初期質量関数の特徴と一致することも明らかになった。星団形成領域での大質量星や星団の活動が、銀河における主要な星の供給源であるという説を支持する、重要な成果だ。

分子雲コアの質量関数
C18O分子で観測された分子雲コアの質量関数(青線)。赤および緑の鎖線は、それぞれ大質量側と小質量側で求められた個数分布のモデル

今後、より高感度な観測によって、さらに低質量の分子雲コアを検出できれば、星団形成領域における分子雲コアと、天の川銀河に属する星々の統計的性質との関連を精密に調査できると期待される。